くまもと中医クリニック 紹介くまもと中医クリニック お問い合わせ

泌尿器疾患における漢方治療

一、病因病機
(一)西洋医学

炎症、腫瘍、変性性疾患、免疫性疾患、結石、老化、心因性疾患など。

(二)中医学

湿熱、?血、臓腑失調、虚証(腎虚、血虚、気虚、陽虚、陰虚など)、結石など。

二、漢方エキス剤
(一)五淋散(ごりんさん)

【処方構成】茯苓、沢瀉、車前子、滑石、木通、山梔子、黄?、当帰、赤芍、甘草。

【適応証候】熱淋:排尿痛、頻尿、残尿感、濃縮尿あるいは血尿、排尿困難あるいは尿閉があり、発熱、口渇、冷たいものを飲みたがる、体の熱感、下腹部脹痛などを伴うことが多い。舌質は紅、舌苔は黄、脈は滑数。

【臨床応用】ポイント:

  1. 排尿痛、頻尿、残尿感、濃縮尿あるいは血尿、排尿困難あるいは尿閉など。
  2. 発熱、体の疲れ、体の熱感など。

急性および慢性の尿道炎、膀胱炎、腎盂腎炎、尿路結石の炎症などで熱淋を呈するものに用いられる。

【参考】本方は現代薬理研究によって、

  1. 消炎作用
  2. 利尿作用
  3. 解熱作用
  4. 鎮痛作用
  5. 鎮静作用などの効能が証明されている。

【使用上の注意】

  • 尿路の炎症がないものに投与しない。
  • 胃腸が弱いものに慎重に投与する。
(二)猪苓湯(ちょれいとう)

【処方構成】猪苓、茯苓、沢瀉、滑石、阿膠。

【適応証候】発熱、熱感、下痢とともに、口渇、尿量減少が見られ、いらいら、不眠などを伴うことがある。また、濃縮尿とともに血尿、下腹部脹痛、残尿感、排尿痛、排尿困難なども生じることが多い。舌質は紅、舌苔は黄〜黄膩、脈は数〜滑数。

【臨床応用】ポイント:

  1. 排尿痛、残尿感、濃縮尿あるいは血尿、排尿困難など。
  2. 発熱、熱感、口渇、尿量減少など。

軽度の尿路系炎症、尿路結石、腎炎、胃腸炎などで、湿熱を呈するものに用いられる。

【参考】本方は現代薬理研究によって

  1. 利尿作用
  2. 排石作用
  3. 解熱作用
  4. 鎮痛作用
  5. 鎮静作用などの効能が証明されている。

【使用上の注意】

  • 尿路の炎症が強いものに投与しない。
  • 胃腸が弱いものに慎重に投与する。
(三)竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)

【処方構成】竜胆草、山梔子、黄?、車前子、沢瀉、木通、当帰、甘草、地黄。

【適応証候】発熱、排尿痛、排尿困難、残尿感、尿の混濁、陰部の熱感・痒み・腫脹、悪臭のある黄色の帯下など、舌苔は黄膩、脈は数など。
また、頭痛、眩暈、耳鳴り、突発性難聴、気持ちが焦っていらいらし、怒りっぽい、顔面紅潮、目の充血、口が苦い、胸脇痛、舌の尖辺は紅、舌苔は黄色、脈は弦数など。

【臨床応用】ポイント:

  1. 発熱
  2. 排尿痛
  3. 排尿困難
  4. 残尿感
  5. 尿の混濁
  6. 陰部の熱感・痒み・腫脹、悪臭のある黄色な帯下など。

急性尿路感染症、急性前立腺炎、陰部湿疹、陰部?痒症など、その他に頭痛、高血圧、急性黄疸性肝炎、急性胆嚢炎、ベーチェット病、甲状腺機能亢進症、帯状疱疹、突発性難聴などにも用いる。

【参考】本方は現代薬理研究によって、

  1. 抗炎症作用
  2. 解熱作用
  3. 利尿作用
  4. 血圧降下の作用
  5. 免疫能の調整作用
  6. 抑菌作用などの効能が証明されている。

【使用上の注意】

  • 本方は苦寒の生薬が多く、胃腸障害を引き起こしやすいため、胃腸が弱いものに慎重に投与すべきである。また症状が改善されば中止すべきであり、長期間に投与しないように注意する必要がある。
  • 寒がりや手足の冷えなどの寒証が見られる場合に本方を投与しない。
  • 本方を投与中に手足の冷え、寒がり、胃腸障害などの症状が出れば投与を中止すべきである。
(四)六味地黄丸(ろくみじおうがん)

【処方構成】地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮。

【適応証候】尿量減少あるいは頻尿、夜尿症、陰部の不快感などに、腰や下肢の脱力感、咽の乾き、体の熱感、手足のほてり、頭がふらつく、耳鳴り、寝汗などを伴うもの。舌質は紅あるいは暗紅、舌苔は少ない、脈は沈細数あるいは弦細数。

【臨床応用】ポイント:

  1. 尿量減少あるいは頻尿、夜尿症、陰部の不快感など。
  2. 体の疲れ、手足のほてりやのぼせ、体の熱感。

夜尿症:夜尿、元気がない、寝汗、手足のほてり、のぼせなどの症状が見られる場合に適応する。子供の夜尿症には、しばしば腰椎分裂症を伴うことがあり、六味丸を投与することにより夜尿症だけではなく腰椎分裂症を完治したことが報告されている。年齢は若ければ若いほど治療効果が高い。

その他にネフローゼ、慢性腎炎、前立腺炎、慢性尿路感染症、糖尿病、発達遅延、脊柱側弯症などにも用いられる。

【参考】

本方は現代薬理研究によって

  1. 抗低温、抗疲労
  2. 腎機能を調節する(尿素の排泄を促進する)
  3. 肝機能を保護する
  4. 聴神経機能を保護する
  5. 腫瘍を持つ動物の免疫、代謝、造血機能を改善するため、延命効果がある。
  6. 食道上皮細胞の癌変を抑制する
  7. 血糖、中性脂肪、尿素窒素を降下する
  8. 血圧降下作用
  9. カルシウムやリンの代謝を調整する
  10. 免疫能の調節作用、抗老化作用などの効能が証明されている。

【使用上の注意】

  • 本方は薬性が滋膩(甘味があってしつこい)であるので胃腸が弱く、軟便や下痢の症状を伴う場合に慎重に投与する。
  • 手足の冷えや寒がりが見られる小児に投与しない。
(五)八味地黄丸(はちみじおうがん)

【処方構成】地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂皮、附子。

【適応証候】浮腫、小便不利(多尿、頻尿、乏尿、排尿痛)、腰膝冷痛、四肢の冷え、下半身の脱力感、疲労倦怠感、舌質は淡、舌苔は薄白、脈は遅沈細無力あるいは沈微。

【臨床応用】ポイント:

  1. 尿量減少あるいは頻尿、夜尿症、陰部の不快感、夜間頻尿など。
  2. 腰や下肢の脱力感、四肢の冷え、寒がりなど。

慢性腎炎、前立腺肥大症の初期、糖尿病、インポテンツ、陰部不定愁訴、排尿機能異常、老人性痴呆などで、腎陽虚・腎陰陽両虚を呈するものに用いられる。

【参考】

本方は現代薬理研究によって

  1. 抗老化作用
  2. 免疫能の増強作用
  3. 糖質代謝の改善効果
  4. 水分や電解質代謝の調整作用
  5. 脂質代謝の改善作用・コレステロールの回転率促進作用・動脈硬化の防止作用
  6. 白内障発症時期の遅延作用・水晶体中の混濁遅延作用
  7. 視神経伝達の改善作用
  8. 皮膚機能の促進作用
  9. 膀胱から青斑核に到る感覚性求心路に作用し、排尿反射を抑制するが、排尿反射における遠心路には作用しない
  10. コリン作動性神経系に作用することで学習能を改善する
  11. 骨吸収亢進の抑制と骨形成系の機能促進作用などの効能が証明されている。

【使用上の注意】

  • 口や咽喉部の乾燥感、舌質は紅、舌苔は少ないなどの虚火上炎の症状が見られる場合に投与しない。
  • 胃腸が弱く、軟便や下痢などが見られる場合には慎重に投与すべきである。
三、証候による漢方エキス剤の使い方
臨 床 の 症 候 漢方エキス剤
肺腎気虚型
身体が虚弱で、かぜを繰り返し引きやすく、顔色が萎黄、疲労倦怠感、疲れやすい、軽い浮腫、蛋白尿、舌質が淡、辺縁に歯痕があり、舌苔が薄白、脈が細弱。
(20)防已黄耆湯
(75+7)四君子湯合八味地黄丸
(43+7)六君子湯合八味地黄丸
脾腎陽虚型
浮腫がひどい、顔色が白っぽい、悪寒、四肢の冷え、腰や下肢の脱力感や痛み、食欲不振、軟便あるいは下痢、舌質が淡、舌体が肥大、辺縁に歯痕があり、舌苔が白膩、脈が沈細あるいは沈遅弱。
(30)真武湯
(30+32)真武湯合人参湯
(127+17)麻黄附子細辛湯合五苓散
肝腎陰虚型
ステロイド剤の長期使用、目の乾燥感、視力減退、口渇、口や咽喉部の乾燥感、ほてりやのぼせ、腰や下肢の脱力感、尿量減少など、舌質が紅、舌苔が少ない、脈が沈細あるいは細数。
(87)六味地黄丸
(87+40)六味地黄丸合猪苓湯
気陰両虚型
体の疲労倦怠感、気力がない、かぜを引きやすい、食欲不振、午後に微熱が出やすい、ほてりやのぼせ、蛋白尿、口や咽喉部の乾燥感、舌質が淡紅、舌苔が少ない、脈が沈細あるいは細弱。
(111)清心蓮子飲
(75+87)四君子湯合六味地黄丸
(20+87) 防已黄耆湯合六味地黄丸
血?型
顔や唇が暗紫色、腰痛や腎区の痛み、四肢のしびれ、浮腫、尿量減少、舌質が紫暗、?斑や?点、舌下静脈が怒張、蛇行、脈が沈渋。
(25+20)桂枝茯苓丸合防已黄耆湯
(23)当帰芍薬散
(112)猪苓湯合四物湯
湿熱型
発熱、体の熱感、扁桃腺や咽喉部の腫れと痛み、のどが渇くが水を飲みたくない、尿の色が黄色がかり赤色を帯び、頻尿、残尿感、排尿痛や排尿困難。舌質が紅、舌苔が黄膩、脈が滑数あるいは濡数。
(56)五淋散
(114)柴苓湯
腎気不固型
頻尿、多尿、甚しい者は失禁する。夜尿症、尿の切れが悪く、腰や背中がこわばって痛む。遺精あるいは夢精、蛋白尿、顔色は蒼白、舌苔は白、脈は沈細など。
(41+7)補中益気湯合八味地黄丸
(26)桂枝加竜骨牡蛎湯
四、ポイント症状による漢方エキス剤の使い方
臨  床  症  状 漢方エキス剤
★ 排尿痛、頻尿、残尿感、排尿困難、発熱、体の熱感などを伴う場合。 (56)五淋散
★ 比較的体力がある人で、発熱、排尿痛、排尿困難、残尿感、陰部の熱感・痒み・腫脹などを伴う場合。 (76)竜胆瀉肝湯
★ 血尿、排尿痛、頻尿、残尿感などの排尿障害がある場合。 (40)猪苓湯
★ 猪苓湯に比べて、症状がより遷延化した場合。 (112)猪苓湯合四物湯
★ 尿の検査で異常がない、排尿痛、頻尿、残尿感、排尿困難などが見られる場合。 (111)清心蓮子飲
★ 尿管結石で痛みが激しい場合。 (68)芍薬甘草湯
★ 胸脇苦満、吐き気、食欲不振、浮腫、尿量減少などを伴う場合。 (114)柴苓湯
★ 浮腫、尿量減少などに四肢関節の腫れ・痛み・熱感、悪寒、発熱、咳などを伴う場合。 (28)越婢加朮湯
★ 浮腫、蛋白尿、疲れやすい、汗が掛けやすい、小便不利などの症状が見られる場合。 (20)防已黄耆湯
★ 浮腫、むくみ、嘔吐、小便不利などを伴う場合。 (17)五苓散
★ 四肢や腹部の冷え、浮腫、四肢の沈重感、食欲不振、軟便あるいは下痢などが見られる場合。 (30)真武湯
★ 浮腫、顔色が白っぽい、悪寒や寒がりがひどい、四肢の冷えなどが見られる場合。 (127+17)麻黄附子細辛湯合五苓散
★ ?血性浮腫、唇の暗紫、小便不利、あるいは妊娠浮腫、生理不順などを伴う場合。 (23)当帰芍薬散
★ 下腹部に抵抗・圧痛、あるいは痛みや不快感があり、陰部の痛み、舌質の暗紫などが見られる場合。 (25)桂枝茯苓丸
★浮腫、小便不利(多尿、夜間頻尿、乏尿、排尿痛)、四肢の冷え、下半身の脱力感、前立腺肥大などを伴う場合  (7)八味地黄丸
★ 八味地黄丸に比べて、下肢の浮腫、むくみ、痛み、しびれなどを伴う場合。 (107)牛車腎気丸
★ 尿量減少あるいは頻尿、夜尿症、陰部の不快感などに、腰や下肢の脱力感、咽の乾き、体の熱感、手足のほてりなどを伴うもの。 (87)六味地黄丸
ページのトップへ戻る