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自律神経失調症の漢方治療

一、病因病機
〔一〕西洋医学
  1. 精神的なストレス
  2. 慢性的な疲労
  3. 体質の素因
  4. 各種の疾患
〔ニ〕中医学
  1. 七情(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)
  2. 労倦(精神的な疲労・肉体的な疲労・性的な疲労)
  3. 飲食(暴飲暴食・少食・偏食
  4. 外邪の侵入(風・寒・暑・湿・燥・火
  5. 先天の素因(性格)
  6. 臓腑の虚損
二、常用漢方エキス剤
〔一〕柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

【組成】柴胡、黄?、半夏、桂枝、茯苓、人参、牡蛎、竜骨、大棗、生姜  

【効能】清熱安神、補気健脾、化痰止嘔

【主治・適応症】いらいら、怒りっぽい、落ち着かない、驚きやすい、動悸、不眠、夢が多い、のぼせ、胸脇苦満などの心肝火旺の症候に、体がだるくて疲れやすい、食欲不振、悪心、腹部膨満感などの脾気虚・痰湿の症候を伴うもの、舌質は紅、舌苔は黄やや膩、脈は弦数。

【臨床応用】臨床では、精神不安、いらいら、動悸、不眠、驚きやすい、落ち着かないなどの症候が本方投与のポイントである。
精神分裂症、てんかん、神経症・自律神経失調症、不眠、耳鳴り、甲状腺機能亢進症、神経性頭痛、ヒステリー性失明、心臓神経症、発作性頻尿、高血圧などの疾患。

【参考】本方は、薬理研究によって

  1. 中枢神経の異常興奮を抑制する
  2. 鎮静・鎮痙作用
  3. 脂質代謝の改善作用
  4. 心血管損傷の保護作用などが証明されている。

【使用上の注意】

  • 本方は燥性がつよいので、ほてり・のぼせ・潮熱・寝汗の陰虚・陰虚火旺の症候を伴うときに禁止する。
  • 血圧が低いものに慎重に投与しない。
〔ニ〕甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)

【組成】甘草、小麦、大棗   

【効能】養血安神、和中緩急

【主治・適応症】ぼんやりする、悲哀感がありよく泣く、焦燥で心が落ち着かない、睡眠が浅い、甚だしいと異常な言動をする、あくびがよく出る、舌質は紅、舌苔は少ない、脈は細数など。

【臨床応用】本方は平素体虚・憂思過度・心陰不足・肝気不和による臓燥症(ヒステリー様の症候)を治療する処方であり、焦燥感・ぼんやりする・悲哀感・睡眠不安・脈の細数などが投与のポイントである。
ヒステリー症(甘麦大棗湯合六君子湯、甘麦大棗湯合酸棗仁湯)、精神分裂症(甘麦大棗湯合柴胡加竜骨牡蛎湯)、更年期症候群、てんかん発作、小児夜泣き、小児夜尿症、小児夜驚症、ヒステリー球、多汗症などの疾患。

【参考】本方は、薬理研究によって

  1. 中枢神経の異常興奮を抑制する
  2. 鎮静・鎮痙・鎮痛作用
  3. 肝庇護作用
  4. 抗アレルギー作用
  5. 長期的服用による血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加などの偽アルドステロン症を認めるなどが証明されている。

【使用上の注意】

  • アルドステロン症、ミオパチー、低カリウム血症の患者に投与しない。
  • 長期間投与する場合には血清カリウム値や血圧の測定を十分に行い、異常が認められるときに投与を中止する。
  • フロセミド、エタクリン酸又はチアジド系利尿剤との併用により血清カリウム値の低下が現れやすくなるので、注意する必要がある。
〔三〕桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)

【組成】桂枝、芍薬、竜骨、牡蛎、甘草、大棗、生姜

【効能】通陽、安神、調和営衛、収斂固渋

【主治・適応症】不安感、不眠、頭のふらつき、潮熱、動悸、煩燥、驚きやすい、夢が多い、手足の冷え、疲れやすい、舌質は淡、舌苔は薄白やや乾燥、脈は浮弱あるいは?、微、動など。

【臨床応用】本方は「金匱要略」で男性の夢精・女性の夢交を治療する処方であり、近来、神経症や自律神経失調症などの多種疾患に陰陽両虚、気血不足、虚陽浮越の症候が見られる場合にも用いられる。「虚陽浮越」とは、軽度の体力低下に伴う脳の刺激閾値の低下によって現れる症候と考えられる。
性的神経衰弱(男性性功能障害で、射精不能、陽萎、早漏)、不眠、心臓神経症、多汗症、自律神経失調症、小児肺炎、慢性腸炎、前立腺肥大、慢性前立腺炎、夜尿症、夢遊症、めまい、蕁麻疹などの疾患に神経過敏、精神不安、潮熱、唇や口の乾燥感、動悸、多夢などの症候が見られる場合には本方を投与する。

【参考】本方は、薬理研究によって、

  1. 竜骨・牡蛎は豊富なカルシウム分を含み、鎮静・鎮痙に働いて脳の興奮性をしずめ刺激閾値を上昇させ、かつ止汗作用によって津液を保持する
  2. 芍薬・大棗は滋養強壮作用の以外に、鎮静・鎮痙作用があり、炙甘草も鎮痙効果をつよめる
  3. 桂枝・生姜は血管拡張によって血液循環を促進し、消化吸収をつよめ、全身に栄養をゆきわたらせるなどが考えられる。

【使用上の注意】

  • 発疹、痒みなどの過敏症状が現れると中止すべきである。
  • 高血圧、顔面の紅潮、怒りぽっいのものに投与しない。
〔四〕酸棗仁湯(さんそうにんとう)

【組成】酸棗仁、炙甘草、知母、茯苓、川?

【効能】養血安神、清熱除煩

【主治・適応症】不眠、煩燥、夢が多い、よく目がさめる、動悸、盗汗、頭のふらつき、めまい、口や咽喉部の乾燥感、舌質は紅、脈は弦あるいは細数など。

【臨床応用】本方は肝血不足・虚火上擾による虚煩不眠を治療する処方であり、虚煩・不眠・動悸・口や咽喉の乾燥感・脈の弦細などが投与のポイント症候である。
更年期症候群・神経症・自律神経失調症・高血圧・心臓病などによる不眠、心臓神経症・不整脈、夢遺(遺精)、ヒステリー(酸棗仁湯合甘麦大棗湯)などの疾患。

【参考】本方は、薬理研究によって

  1. 神経細胞の過度興奮を抑制する
  2. 鎮静安定剤の中枢抑制作用を増強する
  3. 激しい刺激を抵抗する能力を増強する
  4. 不整脈を治療する
  5. 組織細胞の機能を調節する
  6. 鎮静・催眠作用などが証明されている。

【使用上の注意】

  • 胃腸虚弱の患者に下痢を起こす恐れがあるので慎重に投与すべきである。
  • 不眠がひどい患者に安定剤や睡眠導入剤を一緒に投与してもよい。
〔五〕半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

【組成】半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜 

【効能】行気散結、降逆化痰

【主治・適応症】咽喉部に梗塞感や異物感があり嚥下しても喀出してもとれない、胸部が脹って苦しい、咳、痰、悪心、嘔吐、喘鳴、腹部膨満感、舌苔が白潤あるいは白膩、脈が弦滑。

【臨床応用】本方は、咽喉部の梗塞感や異物感、胸部の脹満感、咳、痰、悪心、嘔吐、喘鳴、腹部膨満感などの症候が現われる場合に用いる。
ヒステリー球(梅核気)、咽喉部の異物感、胃食道逆流症、神経性胃炎・胃炎、神経症、抑うつ、自律神経失調症、声帯浮腫、神経性嘔吐、妊娠嘔吐、咽喉神経症、ヒステリー、放射線治療や化学療法による悪心・嘔吐など疾患。

【参考】本方は、薬理研究によって

(1)咽喉反射の抑制作用:
麻酔された猫に本方を投与することによって咽喉反射を抑制され、20−30分後に正常に戻る、処方構成の中に厚朴、蘇葉だけが同様な咽喉反射の抑制作用を持っている
(2)鎮静作用:
本方の投与によりラットの自発活動を著しく抑制される
(3)抗アレルギー作用:
?型と?型のアレルギー反応に対して著明な拮抗作用を示すなどが証明されている。

【使用上注意】

  • 本方は燥性が強いので、ほてりやのぼせなどの陰虚症が見られる場合には投与しない。
  • 本方は癌による咽喉部や食道部の梗塞感や異物感に対して効果がない。
〔六〕加味逍遥散(かみしょうよんさん)

【組成】当帰、芍薬、白朮、茯苓、柴胡、甘草、丹皮、山梔子

【効能】疏肝健脾、和血調経、清熱瀉火。

【主治・適応症】胸脇部が脹って苦しい、ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、頭痛、潮熱、顔面の紅潮、口や咽喉部の乾燥感、疲れやすい、女性では、月経不順、月経痛、月経前の乳房脹痛、下腹部の脹痛、無月経など。舌質が紅、舌苔が薄黄、脈が弦細数。

【臨床応用】臨床では、本方を投与する場合には肝気鬱結・肝鬱化火の病態を把握しなければならない。胸脇部が脹って苦しい、ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、頭痛、潮熱、顔面の紅潮、口や咽喉部の乾燥感、疲れやすいなどは本方を用いるポイント症候である。
自律神経失調症・抑うつ症・ヒステリー・神経症、更年期障害、月経不順、月経痛、不正性出血、月経前期症候群、乳腺症、慢性乳腺炎、慢性肝炎、微熱、肩こり、皮質性失明、視神経炎、中心性網膜炎、網膜中央静脈梗塞、老年性白内障、化膿性角膜潰瘍、慢性甲状腺炎、過敏性腸症候群、胃十二指腸潰瘍、神経性胃炎、神経性下痢、胆嚢炎、胆石症、月経前後症候群、不妊症、産後不眠症、精神分裂症などの疾患。

【参考】薬理研究によって

  1. 本剤は抑うつ症や不眠症に対しては昼と夜のリズムや睡眠リズムの乱れを改善する作用を示している
  2. 更年期障害や卵巣摘出術後の患者に本剤を投与して検討したことによって血管運動神経症状・精神神経症状・知覚運動器官症状・消化器症状に対して極めて高い有効率を認めたと報告されている
  3. 本剤はLHとFSHの量を抑制する傾向が臨床研究や基礎研究から示されている
  4. ラットの急性肝障害に対して本剤を投与したことによって血清GPT・GOTを低下させ肝細胞の脂肪病変や退行性変性を軽減し肝細胞の再生を促進した効果を報告されている
  5. 鎮痛作用・抗抑うつ作用・自律神経調整作用なども報告されている。
    本剤が適応する病態については、消化吸収機能の低下(脾虚)と栄養不良状態や内分泌系の失調状態(血虚)が基礎になり、自律神経系の失調(肝気鬱結)や自律神経系の興奮(肝鬱化火)が加えたものであると考えられる。

【使用上の注意】

  • 妊婦及び妊娠している可能性のある婦人に慎重に投与する。
  • 胃腸が虚弱しているものに下痢や腹痛を起こす恐れがあるので慎重に投与すべきである。
三、症候による漢方エキス剤の使い方
臨 床 の 症 候 漢方エキス剤
肝鬱気滞型:
気にしやすい、胸のつまり感、うつ傾向、咽喉部や食道部の異物感、食欲不振、腹部膨満感、あるいは不快感や痞え感など、舌質が淡、舌苔が薄白、脈が弦あるいは弦渋。
(24)加味逍遥散
(96)柴朴湯
(16)半夏厚朴湯
肝陽上亢型:
精神興奮、いらいらして怒り易い、動悸、顔色が赤く、目の充血、上腹部膨満感、口が苦く、頭痛、肩こり、鼻血、不眠、便秘など。舌質が紅絳、舌苔が薄黄、脈が沈弦。
(12)柴胡加竜骨牡蛎湯
(8)大柴胡湯
(113)三黄瀉心湯
肝腎陰虚型:
疲労倦怠感、手足のほてり、のぼせ、潮熱、口渇あるいは咽喉部の乾燥感、めまい、寝汗など。舌質が紅、舌苔がなし、脈が細数。
(87)六味地黄丸
(93)滋陰降火湯
心脾両虚型:
体がだるくて疲れやすい、不眠、眠りが浅く夢が多い、心悸、物忘れ、集中力の低下、食欲不振、軟便など。舌質が淡紅、舌苔が薄白、脈が細弱。
(65)帰脾湯
(137)加味帰脾湯
(103)酸棗仁湯
気陰両虚型:
疲労倦怠感、何もしたくない、不眠、動悸、不整脈、物忘れ、手足のほてり、のぼせ、口唇や咽喉部の乾燥感、頻尿、舌質が淡紅、舌苔が少ないあるいは地図状、脈が沈細数弱。
(136)清暑益気湯
(64)炙甘草湯
(111)清心蓮子飲
気虚型:
疲労倦怠感、元気がない、声が小さい、少し動くと息切れ、自汗、食欲不振、立ちくらみ、ふらつく、かぜを引きやすいなど。舌質が淡、舌苔が薄白、脈が沈細弱あるいは虚。
(41)補中益気湯
(43)六君子湯
気血両虚型:
気虚の症候に顔色が悪い、つやがない、貧血気味、低血圧、手足の冷えなどを伴う。
(48)十全大補湯
(108)人参養栄湯
脾腎陽虚型:
顔色が青白く、寒がり、四肢の冷え、元気がない、疲労倦怠感、食欲不振、軟便あるいは下痢など。舌質が淡、舌苔が白、脈が沈遅あるいは細弱。
(32)人参湯
(30)真武湯
(7)八味地黄丸
四、ポイント症状による漢方エキス剤の使い方
臨  床  症  状 漢方エキス剤
★ いらいら、肩こり、疲れやすい、めまい、頭痛、潮熱、季肋部の抵抗や圧痛、生理不順などがある場合。
(12)柴胡加竜骨牡蛎湯
★ 胸焼け、上腹部痛、食欲不振、不安、不眠、口内炎などを認める場合。
(14)半夏瀉心湯
★ 精神不安、涙もろい、胸のつまり感、ため息、うつ傾向、咽喉や食道部の異物感、食欲減退、心窩部の膨満感、あるいは不快感や痞え感などの症状が見られる場合。
(96)柴朴湯
★ 口が苦い、頭痛、肩こり、怒り易い、いらいら、不眠、便秘などを伴う場合。
(8)大柴胡湯
★ うつ傾向、咽喉や食道部の異物感(ヒステリー球=梅核気)、心窩部の膨満感、あるいは不快感や痞え感、吐き気などを認める場合。
(16)半夏厚朴湯
★ 精神不安、不眠、体がだるくて疲れやすい、眠りが浅く夢が多い、心悸、物忘れ、集中力の低下、食欲不振、軟便などがある場合。
(137)加味帰脾湯
★ 疲労倦怠感、動悸、不整脈、物忘れ、手足のほてり、のぼせ、口唇や咽喉部の乾燥感などを伴う場合。
(64)炙甘草湯
★ 精神興奮、いらいら、不安、不眠、ひきつけなどが見られるヒステリー症。
(72)甘麦大棗湯
★ 疲労倦怠感、頻尿、排尿痛や不快感、不眠、咽喉部の乾燥感などの症状が見られる場合。
(111)清心蓮子飲
★ 疲労倦怠感、元気がない、顔色が悪い、自汗、食欲不振、手足の冷えなどがある場合 
(108)人参養栄湯
★ 腰や下肢の脱力感、腰痛、寒がり、手足の冷え、物忘れ、夜間頻尿、排尿異常などを伴う場合。
(7)八味地黄丸
★ 腰や下肢の脱力感、腰痛、手足のほてり、のぼせ、物忘れ、むくみ、排尿異常などを伴う場合。
(87)六味地黄丸
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