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循環器疾患の漢方治療

一、 病因病機
(一)西洋医学
  1. 高血圧
  2. 動脈硬化
  3. 狭心症、心筋梗塞
  4. 脳梗塞、脳血栓(脳血管障害)
  5. 下肢の静脈・動脈の血栓など
(二)中医学
  1. 血?
  2. 血虚
  3. 気虚
  4. 気血両虚
  5. 陽虚
  6. 肝陽上亢
  7. 腦中風(肝風内動)
  8. 心血?阻
二、漢方エキス剤
(一)炙甘草湯

【組成】炙甘草・人参・生地黄・桂枝・阿膠・麦門冬・麻子仁・大棗・生姜。

【効能】益気滋陰・通陽復脈。

【主治】心陰陽両虚・肺気陰両虚。 心陰陽両虚:動悸、息切れ、焦燥感、不眠、不安感、便が硬いあるいは便秘、舌質が淡、少苔あるいは無苔、脈が結代あるいは虚数。 肺気陰両虚:乾咳、無痰あるいは少痰、痰に血が混じる、痩せ、息切れ、自汗あるいは寝汗、咽喉部の乾燥感、便秘、舌質が淡、少苔あるいは無苔、脈が虚数など。

【解説】本方は益気滋陰・通陽復脈を目的とする。甘温の炙甘草は主薬で益気養心・生津し、益気健脾養心の人参・大棗が補助する。甘潤の生地黄・阿膠・麦門冬は陰血を滋養し、麻子仁は潤腸通便に働く。さらに辛温の桂枝・生姜により温陽通脈して血脈の流通を高める。全体で心気を補益し、心陰血を滋養し、心陽を強め、血脈を回復することができる。

【参考】現代薬理研究によって、抗不整脈作用が証明されている。

【臨床応用】本方は気血不足による不整脈・心悸・舌淡少苔を治療する常用処方である。

1、不整脈:
動悸、息切れ、焦燥感、不眠、不安感、便が硬いあるいは便秘などを伴う場合には用いる。
2、ウイルス性心筋炎:
動悸、焦燥感、不眠、不安感、便が硬いあるいは便秘などを伴う場合には投与する。熱証を伴う場合には黄連解毒湯を合方する。
3、心臓神経症:
動悸、精神不安、不眠、焦燥不安、口渇、咽喉部の乾燥感などを伴う場合には用いる。 そのほかに、甲状腺機能亢進、狭心症、心筋梗塞などにより、不整脈・心悸・舌淡少苔などの症状が見られる場合には用いられる。
(二)柴胡加竜骨牡蛎湯

【組成】柴胡、黄ごん、半夏、桂枝、茯苓、人参、牡蛎、竜骨、大棗、生姜  

【効能】清熱安神、補気健脾、化痰止嘔

【主治・適応症】

1、 心肝火旺・脾気虚・痰湿:
いらいら、怒りっぽい、落ち着かない、驚きやすい、動悸、不眠、夢が多い、のぼせ、胸脇苦満などの心肝火旺の症候に、体がだるくて疲れやすい、食欲不振、悪心、腹部膨満感などの脾気虚・痰湿の症候を伴うもの、舌質は紅、舌苔は黄やや膩、脈は弦数。
2、少陽病(半表半裏証):
半表半裏証に、いらいら、怒りっぽい、落ち着かない、驚きやすい、動悸、不眠、多夢、胸苦しいなどの心肝火旺の症候を伴うもの。

【処方解説】本方は小柴胡湯の炙甘草を除き、安神鎮驚の竜骨・牡蛎・茯苓と、通陽の桂枝を加えたものである。小柴胡湯で少陽枢機を疏通し、桂枝で残存する表邪を解するとともに少陽枢機の開通を補助する。竜骨・牡蛎は鎮心安神に働き、動悸や驚きやすいなどの症候を鎮める。竜骨は臍下の動悸を、牡蛎は胸腹部の動悸をしずめる効能があるといわれる。茯苓は健脾利水の作用があり、安神にも働く。全体で清熱・安神・補気・健脾・去痰などの効能が発揮され、不眠・動悸・めまい・精神不安・いらいらするなどの症候に適応する。

【参考】現代薬理研究によって、以下の作用が証明されている。

  1. 中枢神経抑制作用
  2. 脂質代謝の改善作用
  3. 心血管損傷の保護作用
  4. 鎮静作用など。

【臨床応用】臨床では、精神不安、いらいら、動悸、不眠、驚きやすい、落ち着かないなどの症候が本方投与のポイントである。

1、心臓神経症:
動悸、興奮しやすい、落ち着かない、不眠などの症候を伴う場合には用いる。
2、その他:
高血圧、神経性頭痛、ヒステリー性失明、甲状腺機能亢進症、発作性頻尿、耳鳴り、不眠、神経症・自律神経失調症、てんかん、精神分裂症などの疾患に、精神不安、いらいら、動悸、不眠、驚きやすい、落ち着かないなどの症状を伴う場合にも本方を用いる。

【使用上の注意】

  • 本方は燥性がつよいので、ほてり・のぼせ・潮熱・寝汗の陰虚・陰虚火旺の症候を伴うときに禁止する。
  • 血圧が低いものに慎重に投与しない。
(三)桂枝加竜骨牡蛎湯

【組成】桂枝、芍薬、竜骨、牡蛎、甘草、大棗、生姜

【効能】通陽、安神、調和営衛、収斂固渋

【主治】陰陽両虚、気血不足、虚陽浮越

【適応症】動悸、煩燥、驚きやすい、精神不安、不眠、頭のふらつき、潮熱、夢が多い、口唇や口の乾燥感、疲れやすい、舌質は淡、舌苔は薄白やや乾燥、脈は浮弱あるいは?、微、動など。

【処方解説】桂枝湯(桂枝・芍薬・甘草・大棗・生姜)は温陽散寒、解肌発表、調和営衛の効能がある。竜骨、牡蛎は重鎮安神、平肝潜陽、収斂固渋の効能があり、精神不安、不眠、驚きやすい、眩暈、遺精、崩漏、虚汗、下痢、帯下などの症状を治療する。全体で陰陽バランスを調整することによって陰陽両虚、営衛不和による多種の疾患を治療する。

【参考】本方は、薬理研究によって、鎮静・鎮痙・止汗作用・滋養強壮作用・血管拡張・消化吸収の促進作用などが証明されています。

【臨床応用】本方は「金匱要略」で男性の夢精・女性の夢交を治療する処方であり、近来、神経症や自律神経失調症などの多種疾患に陰陽両虚、気血不足、虚陽浮越の症候が見られる場合にも用いられる。「虚陽浮越」とは、軽度の体力低下に伴う脳の刺激閾値の低下によって現れる症候と考えられる。

1、心臓神経症:
動悸、不整脈、疲労倦怠感、疲れやすい、寝汗、手足の冷えなどの症候が見られる場合には本方を投与する。 そのほかに、性的神経衰弱、不眠、多汗症、自律神経失調症、慢性腸炎、前立腺肥大、慢性前立腺炎、夜尿症、夢遊症、めまい、蕁麻疹などの疾患に神経過敏、精神不安、潮熱、唇や口の乾燥感、動悸、多夢などの症候が見られる場合には本方を投与してもよい。

【使用上の注意】

  • 発疹、痒みなどの過敏症状が現れると中止すべきである。
  • 高血圧、顔面の紅潮、怒りやすいものに投与しない。
(四)釣藤散

【処方組成】石膏、陳皮、麦門冬、半夏、茯苓、人参、防風、甘草、生姜、釣藤鈎、菊花。

【適応証候】頭痛、肩凝り、頭のふらつき、眩暈、耳鳴り、不眠、顔面の紅潮、いらいら、目の充血、舌質は紅、舌苔は薄黄膩、脈は弦やや数。

【臨床応用】本方は平肝潜陽・化痰清熱・益気健脾の生薬が配合されている処方であり、鎮静、鎮痛、鎮痙、降圧、清熱などの作用を持つとともに、消化吸収を促進し全身の機能を高める効果が得られる。臨床では、高血圧による頭痛、眩暈、目の充血、後頭部のこわばり、肩凝りなどを訴える場合に、あるいは自律神経失調症による頭痛、眩暈、頭のふらつき、耳鳴り、不眠、顔面の紅潮、いらいらなどを訴える場合に用いる。血圧が高い時には、降圧剤を併用したほうがよい。

【ポイント】頭のふらつき、眩暈、顔面の紅潮、脳血管障害などを伴う場合に用いる。 

(五)七物降下湯

【処方構成】当帰、地黄、芍薬、川きゅう、黄耆、黄柏、釣藤鈎。

【適応証候】頭痛、肩凝り、頭のふらつき、眩暈、耳鳴り、のぼせ、疲れやすい、舌質は淡または紅、舌苔は薄、脈は細弦。

【臨床応用】本方は益気養血・平肝降火の生薬が配合されている処方であり、補血、鎮静、鎮痛、鎮痙、降圧、強壮などの効果が得られる。臨床では、高血圧症、自律神経失調症、更年期症候群などの疾患による頭痛、肩凝り、眩暈、頭のふらつき、耳鳴り、のぼせ、眼精疲労、疲れやすいなどを訴える場合に用いる。ほてり、のぼせ、鼻血をともなう場合に黄連解毒湯を合方する。

【ポイント】肩凝り、後頭部のこわばり、耳鳴り、疲れやすいなどを伴うものに用いる。

(六)桂枝茯苓丸 

【組成】桂枝、茯苓、芍薬、桃仁、牡丹皮   

【効能】活血化?、緩消?腫

【主治・適応症】

1、 婦人お血証:
下腹部の腫瘍、月経困難、月経痛、無月経、不正性器出血、子宮内膜症などに、下腹部の疼痛や圧痛抵抗などの症状を伴うもの、舌質は紫暗あるいはお斑、脈は渋あるいは弦。
2、 血?証:
四肢のしびれや痛み、冷え、静脈の拡張や蛇行、皮膚の?斑、関節の痛み、打撲による?血、頭痛、肩こりなどの一般的なお血症候があるもの、舌質は紫暗あるいはお斑、脈は渋あるいは弦。(血?証には男女を問わず用いることができる)

【臨床応用】婦人お血証(月経困難、月経痛、無月経、不正性器出血、子宮内膜症、子宮筋腫や卵巣腫瘍の初期、産後子宮復古不全、死胎、骨盤内炎症、乳腺腫瘍など)に、下腹部の痛みや冷え、局部の圧痛や抵抗、四肢の冷え、舌質の紫暗あるいはお斑、舌のうらに静脈の拡張や蛇行などのお血症候を認める場合には本方を投与する。また、男女を問わず一般的なお血の症候(四肢のしびれや痛み、冷え、静脈の拡張や蛇行、皮膚のお斑、打撲による?血、肩こり、半身不随など)を認めれば投与する。

【薬理参考】本方では、お血モデル動物を用いる現代薬理研究によって以下のことが証明されている。

  1. 血液凝固能の亢進、血液粘度の上昇、過酸化脂質の上昇などを抑制する。
  2. 赤血球変形能の低下を改善する。
  3. 血液循環の改善と抗血栓作用。
  4. 子宮筋腫や子宮内膜症を改善する。
  5. 乳腺の腫瘍化と腫瘍増殖を抑制する。
  6. 高プロラクチン血症モデル動物の血中テストステロンを低下させる。
  7. 抗炎症作用。

【使用上の注意】

  • 妊婦には本方の投与を禁忌とする。
  • 出血性疾患や月経量過多の患者には慎重に投与する。
  • 本方は空咳や咽喉部の乾燥感などの陰虚症状が見られる場合には投与しない。
  • 著しく体力の衰えている患者や胃腸の弱い患者には慎重に投与する。
三、症候による漢方エキス剤の使い方
臨 床 の 症 候 漢方エキス剤
1、肝陽上亢:
顔面紅潮、怒りっぽい、いらいら、目の充血、興奮しやすい、高血圧、眩暈、四肢のしびれなどを伴う。舌質が紅、舌苔が薄黄、脈が弦数あるいは弦細数。
(47)釣藤散
(46+15)七物降下湯合黄連解毒湯
2、心気陰両虚:
動悸、不整脈、疲れやすい、口や咽喉部の乾燥感、焦燥感、不眠、不安感、便が硬いあるいは便秘、舌質が淡、少苔あるいは無苔、脈が結代あるいは虚数。
(64)炙甘草湯
3、心肝火旺:
動悸、いらいら、怒りっぽい、落ち着かない、驚きやすい、不眠、夢が多い、のぼせ、胸脇苦満などの心肝火旺の症候に、体がだるくて疲れやすい、食欲不振、悪心、腹部膨満感などの脾気虚・痰湿の症候を伴うもの、舌質は紅、舌苔は黄やや膩、脈は弦数。
(12)柴胡加竜骨牡蛎湯
4、心陰陽両虚:
動悸、不安感、不眠、頭のふらつき、驚きやすい、夢が多い、口の乾燥感、疲れやすい、手足の冷えなど。舌質は淡、舌苔は薄白やや乾燥、脈は浮弱あるいは?、微、動など。
(26) 桂枝加竜骨牡蛎湯
5、心脈不通・心血?阻:
前胸部の痛み、その痛みがときとき肩や背中に放散する、胸部の閉塞感あるいは重苦しさがある。舌質が紫暗、脈が弦あるいは沈渋。
冠元顆粒
救心丸・活心丸
丹参滴丸
6、心陽虚:
動悸があり動くとひどくなる、胸苦しさ、息切れ、夜間頻尿、疲れやすい、自汗、寒がりや四肢の冷えなど。舌質が淡、舌苔が白、脈が沈細無力あるいは結代。
(82)桂枝人参湯
(26)桂枝加竜骨牡蛎湯合附子・紅参
7、気滞血?:
上肢のしびれ、前胸部の痛み、手足の冷え、皮膚の紫暗や?斑などを伴う。舌質が暗紫、あるいは?斑、?点、舌苔が薄白、脈が細渋あるいは沈渋
(25+35)桂枝茯苓丸合四逆散
8、心脾両虚:
動悸、精神不安、落ち着かない、健忘、不眠、夢が多い、自汗、食欲不振、疲労倦怠感などを伴う。舌質が淡紅、舌苔が薄白、脈が細弱。
(65)帰脾湯
(137)加味帰脾湯
四、ポイント症状による漢方エキス剤の使い方
臨  床  症  状 漢方エキス剤
★高血圧に、顔面の熱感、いらいら、興奮しやすい、頭痛、眩暈などを伴う場合。 (47)釣藤散
★高血圧に、顔面紅潮、怒りっぽい、いらいら、目の充血、鼻血、結膜下の出血などを伴う場合。 (15)黄連解毒湯
★高血圧に、肩凝り、後頭部のこわばり、耳鳴り、疲れやすいなどを伴う場合。 (46)七物降下湯
★高血圧に、いらいら、精神不安、のぼせ、便秘などを伴う場合。 (113)三黄瀉心湯
★高血圧に、?血の症状があり、便秘を伴う場合。 (105)通導散
★高血圧に、体力があり、腹部に皮下脂肪が多く、便秘などを伴う場合。 (62)防風通聖散
★高血圧に、腰部および下肢の脱力感、夜間頻尿や排尿異常などを伴う場合。 (7)八味地黄丸
★不整脈に、動悸、疲れやすい、口や咽喉部の乾燥感、焦燥感などを伴う場合。 (64)炙甘草湯
★不整脈に、不眠、動悸、夢が多い、よく目が覚める、口や咽喉部の乾燥感などを伴う場合。 (103)酸棗仁湯
★動悸に、いらいら、怒りっぽい、落ち着かない、胸脇苦満、疲れやすい、食欲不振などを伴う場合。 (12)柴胡加竜骨牡蛎湯
★動悸に、不安感、不眠、驚きやすい、夢が多い、疲れやすい、手足の冷えなどを伴う場合。 (26)桂枝加竜骨牡蛎湯
★動悸に、精神不安、不眠、自汗、食欲不振、疲労倦怠感などを伴う場合。

(137)加味帰脾湯

★動悸に、低血圧、ふらつき、立ちくらみ、頭痛、冷えなどを伴う場合。 (82)桂枝人参湯
★心臓性喘息に、心窩部がつかえ、呼吸困難などを伴う場合 (36)木防已湯
★心臓弁膜症に、体質の虚弱、冷え、貧血などを伴う場合。 (23)当帰芍薬散
★静脈や動脈の血栓に、局部皮膚の紫暗、痛みやしびれ、冷えなどを伴う場合。 (25)桂枝茯苓丸
★静脈や動脈の血栓に、局部皮膚の紅腫、熱感、痛みやしびれ、などを伴う場合。 (25+15)桂枝茯苓丸合黄連解毒湯
★静脈や動脈の血栓に、局部皮膚の紫暗、痛みやしびれ、便秘などを伴う場合。 (105)通導散

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