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呼吸器疾患における漢方治療

一、 病因病機
(一)西洋医学
気管支炎、気管支喘息、気管支拡張症、肺炎、肺結核、肺膿瘍、間質性肺炎、肺気腫、肺がん、肺線維症など。
(二)中医学
肺熱証、肺寒証、熱痰、寒痰、肺気虚、肺気逆、気滞、肺陰虚、肺気陰両虚、肺脾両虚、肺腎両虚、肺お血など。
二、 漢方エキス剤
(一)麻黄湯(まおうとう)

【組成】麻黄、桂枝、杏仁、炙甘草。
【効能】発汗解表、宣肺平喘。
【主治】外感風寒表実証。悪寒、発熱、頭痛、身体痛、無汗、咳あるいは呼吸困難、鼻閉、鼻水、舌苔が薄白、脈が浮緊。
【参考】 現代薬理研究によって、発汗作用・解熱作用・気管支拡張作用・鎮咳作用・去痰作用・抗炎症作用・抗ウイルス作用・利尿作用などが証明されている。
【臨床応用】 本方は邪気がより強く、肺気不宣証に適用する。悪寒、発熱、無汗、喘息、脈の浮緊などが投与のポイントである。特に本方は発汗が強い方剤であり、発汗解表の力がより強いので、風寒の邪気が皮膚と筋肉に侵入して盛んな風寒表実証に用いる。

1、 呼吸系疾患:
麻黄湯は、解熱・発汗・鎮咳・平喘・除痰・消炎などの作用を持つため、感冒、流感、気管支炎、気管支喘息、肺炎などの疾患に、悪寒、発熱、無汗、喘息などの風寒表実証が現われる場合に用いる。 その外に腎炎、乾癬(麻黄湯と四物湯)、結節性紅斑(麻黄湯合小柴胡湯)、寒冷性じんましん(麻黄桂枝各半湯)、風湿病、小児夜尿症、アレルギー性鼻炎、凍瘡、坐骨神経痛、急性結膜炎、急性乳腺炎、冷え症、生理痛などの疾患にも用いる。

【使用上注意】

  • 体の虚弱の人で、全身疲労倦怠感、自汗、疲れやすいなどの虚証が見られる場合には本方を投与しない。
  • 本方を投与してから、発汗が見られ、熱が正常に戻ると中止すべきである。
(二)麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)

【組成】麻黄、石膏、杏仁、炙甘草。
【効能】辛涼宣肺、清熱平喘。
【主治】外感風熱、肺熱咳喘。  発熱、咳、喘息、口渇、有汗あるいは無汗、舌苔が薄白あるいは黄、脈が浮数。
【参考】 現代薬理研究によって、抗炎症作用・抗アレルギー作用・抗菌作用・解熱・平喘・鎮咳・利尿などが証明されている。
【臨床応用】 本方は風熱侵肺、または風寒化熱、熱邪阻肺、肺失宣降に適応し、発熱、咳、喘息、口渇、舌苔が薄黄、脈が数などは弁証の要点である。

1、 急性気管支炎:
気管支に急性炎症があり、咳、黄色の痰、呼吸困難、発熱などの症候を認める場合には用いる。
2、 肺炎、小児肺炎:
肺炎の場合には、発熱、咳、黄色の痰、呼吸困難に対して、本方を投与すると以上の症状を軽減することができる。また抗生剤を併用することにより、解熱や肺症状の改善、治療期間の短縮などの効果が得られる。
3、 気管支喘息:
発熱があると喘息の発作がでる、あるいは気候が熱くなると喘息を誘発・増悪する場合には本方を投与する。

【類似処方】 五虎湯:五虎湯は麻杏甘石湯に桑白皮を加えるものである。

(三)神秘湯(しんぴとう)

【組成】麻黄、杏仁、厚朴、陳皮、柴胡、紫蘇葉、炙甘草。
【効能】止咳平喘、疏肝解鬱、理気化痰。
【主治】肝気鬱結の喘咳。  咳、呼吸困難、喘鳴、少痰とともに、いらいら、憂鬱感、胸脇苦満などの症候を伴う。舌苔が白、脈が弦。
【参考】 現代薬理研究によって、呼吸困難の改善、鎮咳・?痰・鎮静・解熱・消炎・自律神経調整などの作用が証明されている。
【臨床応用】 本方は咳、呼吸困難、喘鳴、少痰とともに、いらいら、憂鬱感、胸脇苦満などは弁証の要点であり、気管支炎、気管支喘息などで、肝気鬱結の喘咳を呈するものに用いられる。
【使用注意】

  • 麻黄は発汗の作用があり、汗がよく出る患者に慎重に用いる。
  • 疲労倦怠感、疲れやすいなどの気虚の症状が見られる場合には投与しない。
(四)竹?温胆湯(ちくじょううんたんとう)

【組成】半夏、柴胡、人参、黄連、甘草、麦門冬、茯苓、桔梗、枳実、 香附子、陳皮、竹?、生姜
【効能】清熱化痰、和胃降逆、清熱解鬱、益気滋陰
【主治】痰熱上擾
【適応症】 持続性発熱(微熱)、咳嗽、多痰、いらいら、怒りっぽい、胸脇部の脹って痛み、腹部膨満感、口渇、食欲不振、疲れやすいなど、舌質は紅、舌苔は黄膩、脈は弦滑など。
【参考】 本方は薬理研究によって、

  1. 鎮静作用があり、脳の興奮性をしずめ、自律神経系を調整する
  2. 解熱作用によって熱を下がる
  3. 消炎?痰の作用によって咳嗽や痰を静めるなどの効能がある。

【臨床応用】 本方は咳嗽、多痰、微熱が続く、不安や不眠などの症候を伴う場合に適応する。

(1)カゼ症候群、インフルエンザ:
風邪やインフルエンザに羅患し、咳嗽、多痰、微熱などが長引く、不安、不眠、いらいらなどを伴う場合に本方を用いる。
(2)気管支炎、気管支喘息:
咳嗽、痰が多い、呼吸困難、胸脇苦満(胸部と腹部に膨満感があり、肋骨弓下部の抵抗や圧痛)、微熱などの症候が見られる場合には本方を投与すると症状の改善が得られる。
(3)肺炎の回復期:
咳嗽、多痰、微熱、多汗、不眠、胸脇苦満などの症状が見られる場合には本方を用いるとよい効果が得られる。
(5)その他:
てんかん、更年期障害、自立神経失調症、神経症、精神病、慢性胆嚢炎、不眠症、心臓神経症、脳動脈硬化などで痰熱上擾の症候を伴うときに本方を投与する。

【使用上の注意】

  • 本方を投与してから血圧上昇、浮腫などの症状が見られる時は投与を中止すべきである。

【関連処方】

(1)二陳湯:
竹?温胆湯から柴胡、人参、黄連、麦門冬、桔梗、枳実、香附子、竹?を引いたものである。
  
(2)小柴胡湯:
竹?温胆湯から黄連、麦門冬、茯苓、桔梗、枳実、香附子、陳皮、竹?を引いて黄?を加えたものである。
 

(五) 麦門冬湯(ばくもんどうとう)
   

【組成】麦門冬、半夏、人参、甘草、粳米、大棗
【効能】滋養肺胃、降逆下気
【主治】肺胃陰虚
【適応症】

(1) 肺陰不足:
空咳、激しい咳こみ、痰が粘稠で切れにくい、口や咽喉部の乾燥感、咽喉や気管支の刺激感、舌質は紅で乾燥、舌苔は少ない、脈は細など。
(2) 胃陰不足:
胃痛、口渇、口や咽喉部の乾燥感、嘔吐、舌質は紅で乾燥、舌苔は少ない、脈は細など。

【参考】 本方は薬理研究によって、以下のことを証明している。

  1. 咳反射のトリガー部位におけるタキキニン受容体レベルでの拮抗作用に加え、タキキニンの生成、遊離、分解などの動態に対しても総合的に作用し、これらのタキキニン制御作用が重要である。
  2. ラジカルスカベンジング 作用、肺サーファクタント分泌制御作用など、気道に対しステロイド様の多彩な薬理作用を併せ持つ。
  3. 気道クリアランス促進作用。
  4. 遺伝子の転写調節を介し、細胞生理機能を調節するなどの作用が証明されている。

以上のように、麦門冬湯は鎮咳作用だけではなく、咳、痰、気道過敏性、炎症の原因となっている気道病変そのものに対する修復薬と考えられる。

【臨床応用】 空咳、少量の粘稠痰あるいは無痰、口や咽喉部の乾燥感、気管支の刺激感などの症状が本方を投与するポイントである。

  1. 呼吸器系疾患の喀痰困難や難治性咳嗽(急・慢性気管支炎、上気道感染症、肺炎の回復期、肺結核など):空咳、痰が少ない、あるいは痰が粘稠で切れにくい、咽喉部や気管支の乾燥感などの症状が見られる場合には本方を用いる。特に空咳、コデイン抵抗性・難治性咳嗽にはて本方の服用により優れた鎮咳効果が得られる。
  2. 口咽乾燥症:咽喉部や口腔の乾燥感や痛み、唾液が少ない、嗄声などの症状が見られる場合には本方を用いる。
  3. その他に、声帯ポリプ、慢性萎縮性胃炎、慢性咽喉炎、虚熱による梅核気(咽喉や食道の異物感)、胃潰瘍、塵肺などで空咳、痰の切れにくい、咽喉部や口の乾燥感などの陰虚症候を呈する場合に本方を投与してもよい。

【使用上の注意】

  • 本方は痰が多いものに適応しないので投与されると痰がますます多くなる。
  • 本方は消炎の効果が弱いので、炎症が強い場合には投与しない。
  • 発熱や炎症があるときに抗生剤を併用すべきである。

(六)辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

【組成】麦門冬・石膏・黄?・山梔子・百合・知母・辛夷・枇杷葉・升麻
【効能】清肺通竅、滋陰
【主治】肺熱鼻淵
【適応症】 黄色い鼻汁が多く、鼻部の熱感、鼻づまり、口渇、咽喉部の痛み、頭痛など、舌質は紅、舌苔は黄、脈は細数。
【臨床応用】 本方は、清熱・解毒・滋陰の作用があり、肺熱鼻淵(蓄膿症)に適応する。黄色い鼻汁が多く、鼻部の熱感、鼻づまり、口渇、咽喉部の痛み、頭痛などが本方を投与するポイントである。

(1) 蓄膿症:
黄色い鼻汁が多く、鼻部の熱感、鼻づまり、口渇、咽喉部の痛み、頭痛などが見られる場合には投与する。
(2)アレルギー性鼻炎:
鼻部の熱感、鼻づまり、口渇、咽喉部の痛みなどが見られる場合には投与する。
(3)鼻内ポリープにも用いられる。

【使用上の注意】

  • 寒がりや手足の冷えなどの寒証が見られる場合に本方を投与しない。
  • 水のような鼻汁で寒くなるとひどくなる患者に投与しない。
(七)清肺湯(せいはいとう)

【組成】黄?・山梔子・桑白皮・貝母・桔梗・杏仁・竹茹・陳皮・茯苓・当帰・ 天門冬・麦門冬・五味子・甘草・大棗・生姜
【効能】清肺・止咳化痰
【主治】肺熱咳痰
【適応症】 咳、痰が黄色い、口渇、咽喉部の痒いや痛み、発熱、胸痛など、舌質は紅、舌苔は黄膩、脈は滑数。
【臨床応用】 本方は、熱性の咳や痰を主症状とする病状に広く使われる処方である。咳、痰が黄色い、口渇、咽喉部の痛み、発熱などが本方を投与するポイントです。

(1) 急性気管支炎:
咳、痰が黄色い、口渇、咽喉部の痒みや痛み、発熱、胸痛などが見られる場合には投与する。
(2)肺炎:
肺炎の早期に咳、痰が黄色い、口渇、咽喉部の痒いや痛み、発熱、胸痛などが見られる場合には投与する。

【使用上の注意】

  • 痰が白く量が多い場合に本方を投与しない。
  • 水のような鼻汁で寒くなるとひどくなる患者に投与しない。
三、証候による漢方エキス剤の使い方
臨 床 の 症 候 漢方エキス剤
風寒犯肺型
 悪寒の目立つもの。鼻閉、透明な鼻汁、咳、痰が白い、咽喉部の痛み、発熱、発汗しない、身体痛、頭痛など。舌質は淡、舌苔は薄白、脈は浮緊。 (1)葛根湯
(27)麻黄湯
風熱犯肺型
 発熱が目立ち、炎症を伴うもの。発熱あるいは高熱、咽喉部の発赤、腫脹、疼痛、咳、黄色い粘稠痰、しばしば発汗、頭痛、鼻閉、膿性鼻汁などを伴う。舌質は赤、舌苔は薄黄、脈は浮数。 (55)麻杏甘石湯
(銀翹散、桑菊飲)
痰熱壅肺型
 咳、黄色い粘稠痰、口渇、気喘、胸痛、膿血を咯出する、高熱、煩燥不安、便秘。舌質は赤、舌苔は黄膩、脈は数滑、数実。 (90)清肺湯
(91)竹茹温胆湯
痰湿阻肺型
 胸悶、気喘、痰鳴、痰の量が多く色が白く、食欲不振、悪心など。舌質は淡、舌苔は灰白膩、脈は弦滑、あるいは緩。 (81)二陳湯
(43)六君子湯
寒喘型
寒くなるとくしゃみや鼻水が出て、喘息発作がでる。咳があり、痰が白く、稀薄で、量が多い。顔色が淡白、四肢が冷える。舌質は淡、舌苔は白膩、脈は沈細、或は沈緊。 (19)小青龍湯
(119)苓甘姜味辛夏仁湯
(127)麻黄細辛附子湯
熱喘型  
 気候が熱くなると、あるいは発熱すると、喘息発作がでる。痰が黄色、粘稠で出しにくい。顔色が赤い、口渇、咽喉が赤く、痛い。便秘。舌質は紅く、舌苔は黄色。脈は浮数。 (55)麻杏甘石湯
(95)五虎湯
気鬱痰阻型
精神的ストレスによって喘息発作がでやすい。痰の量が多く、出しやすい。胸部の苦満、煩悶。食欲不振、あるいは便秘。舌質は紫暗、舌苔は厚く、白膩、あるいは黄膩。脈は弦滑。 (85)神秘湯
(96)柴朴湯
胃気上逆型
 喘息の発作は夜?朝に多く、食べ過ぎると誘発される。胃食道逆流症の臨床症状が見られる。吐き気あるいは悪心、嘔吐、食欲不振をみる。舌質は赤い、舌苔は薄白。脈は弦数。 (35+16)四逆散合半夏厚朴湯
(35+85)四逆散合神秘湯
肺陰虚型
 空咳、上気道の乾燥症状が目立つもの、空咳または少量の粘稠な痰、咽喉部の乾燥感、かすれ声、寝汗、手足のほてり、微熱など。舌質は赤く乾燥、舌苔は少ない、脈は細数。 (29)麦門冬湯
(93)滋陰降火湯
肺気虚型
 元気がないもの、全身疲労倦怠感、疲れやすい、何もする気がない、咳、息切れ、自汗、ちょっと動いて汗が出るなど。舌質は淡、舌苔は薄白、脈は細弱、無力。 (41)補中益気湯
(43)六君子湯
肺脾両虚型  
 肺気虚の証の上に消化吸収機能低下の症候を加える。たとえば体がだるく疲れやすい、四肢の脱力感、自汗。食欲不振、軟便、あるは下痢。食物性アレルギーによる発作など。舌質は淡、舌苔は薄白。脈は沈細、あるいは虚。 (43)六君子湯
(75)四君湯
肺腎両虚型
 肺気虚の証の上に腎虚の証を加える。たとえば家族に気道過敏性の高いものがいる。本人は喘息発作をくりかえし、なおりにくい。顔色が薄黒い、灰色。腰や下肢の脱力感。舌質は淡、舌苔は白い。脈は沈細、無力。 (43+87)六君子湯合六味地黄丸
(41+7) 補中益気湯合八味地黄丸
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