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老年性疾患の漢方治療

一、 病因病機
(一) 西洋医学
  1. 老化現象
  2. 高血圧・動脈硬化(心・脳血管障害)
  3. 胃腸障害
  4. 筋肉の萎縮・骨粗鬆症
  5. 腫瘍・がん
  6. 痴呆
  7. 泌尿器機能障害
  8. 虚弱体質
(二) 中医学
  1. 腎虚(陰虚・陽虚・陰陽両虚)
  2. 血?・?血
  3. 気血両虚
  4. 脾気虚・脾陽虚
  5. 肺気虚
  6. 肝陽上亢
  7. 心脾両虚
二、漢方エキス剤
(一)八味地黄丸

【組成】地黄・山薬・山茱萸・沢瀉・茯苓・牡丹皮・桂枝・附子   

【効能】温補腎陽

【主治・適応症】腎陽虚証、腎陰陽両虚証

腰や下肢がだるくて力がない、腰や下肢の冷感、四肢の冷え、ふらつき、耳鳴り、聴力減退、寒がり、インポテンツ、頻尿、排尿困難、夜間多尿、遺尿、浮腫、歯の動揺、舌質は淡白、舌苔は白滑、脈は沈で無力など。

【臨床応用】本方は、腰や下肢がだるくて力がない、腰痛や下肢の痛み、四肢の冷え、寒がり、頻尿、排尿困難、夜間多尿などに用いられる。老化現象、痴呆症、腰痛、骨粗鬆症、白内障、老人性膣炎、萎縮性膣炎、前立腺肥大症、変形性膝関節症、糖尿病、甲状腺機能低下、リュウマチ性関節炎、気管支喘息、腎炎、ネフローゼ、男性不妊症、慢性前立腺炎、慢性膀胱炎などに用いられる。

【参考】本方は現代薬理研究によって、以下のことを証明している。

  1. 抗老化作用
  2. 免疫能の増強作用
  3. 糖質代謝の改善効果
  4. 水分や電解質代謝の調整作用
  5. 脂質代謝の改善作用・コレステロールの回転率促進作用・動脈硬化の防止作用
  6. 白内障発症時期の遅延作用・水晶体中の混濁遅延作用
  7. 視神経伝達の改善作用
  8. 皮膚機能の促進作用
  9. 膀胱から青斑核に到る感覚性求心路に作用し、排尿反射を抑制するが、排尿反射における遠心路には作用しない
  10. コリン作動性神経系に作用することで学習能を改善する
  11. 骨吸収亢進の抑制と骨形成系の機能促進作用。

【使用上の注意】

  • 口や咽喉部の乾燥感、舌質は紅、舌苔は少ないなどの虚火上炎の症状が見られる場合に投与しない。
  • 胃腸が弱く、軟便や下痢などが見られる場合には慎重に投与すべきである。

関連処方:六味地黄丸・牛車腎気丸

(二)六君子湯  

【組成】人参・白朮・茯苓・炙甘草・陳皮・半夏

【主治・適応症】疲れやすい、顔色が萎黄、食欲不振、軟便あるいは下痢便、上腹部のつかえ、悪心、嘔吐、咳、痰が薄くて多い、舌質は淡白で肥大、舌苔は白厚膩、脈は滑弱など。

【臨床応用】ポイント:

  1. 食欲不振、疲れ、痩せる。
  2. 吐き気、嘔吐。慢性胃炎、胃十二指腸潰瘍、胃下垂、胃アトニー、神経性無食欲症、上腹部不定愁訴、抗癌剤や放射線療法の副作用、逆流性食道炎などに効果が得られる。

【参考】本方は薬理研究によって、以下のことを証明している。

  1. 胃粘膜障害の抑制作用
  2. 胃粘膜血流増加作用及び血流低下抑制作用
  3. 胃排出促進作用
  4. 消化管運動亢進作用
  5. 胃酸・ペプシンの分泌抑制作用
  6. 胃粘膜防御因子の増強作用
  7. 活性酸素消去作用
  8. 胃適応性弛緩の増強作用など。

【使用上の注意】手足のほてりやのぼせ、潮熱などの症状を伴う場合に慎重に投与する。

関連処方:四君子湯・補中益気湯

(三)十全大補湯

【組成】地黄・芍薬・当帰・川?・人参・白朮・茯苓・甘草・黄耆・桂皮

【効能】益気補血、温陽?寒

【主治】気血両虚・虚寒

【適応症】疲労倦怠感、疲れやすい、元気がない、食欲不振、軟便あるいは泥状便、顔色が悪い、皮膚につやがない、頭がふらつく、目がかすむ、四肢のしびれ、筋肉のひきつり、寒がり、四肢の冷えなど、舌質は淡白、舌苔は白、脈は沈細弱など。

【臨床応用】気血両虚で、寒がり、四肢の冷えなど虚寒症候を伴う場合には本方を用いる。
虚弱体質、病後の回復、手術前状態の改善および術後の体力回復、がんの患者に対する化学療法の副作用・放射線治療の副作用・免疫力の低下・造血機能の抑制を治療するなど。

【参考】本方は薬理研究によって、以下の効能が証明されている。

  1. 骨髄の造血機能を促進し、貧血状態を改善する
  2. 血液循環を調節し、低い血圧を正常に回復させる
  3. 免疫能を強め、抵抗力を高める
  4. 抗腫瘍効果
  5. 癌の化学療法や放射線療法の副作用を軽減する
  6. 抗癌剤作用を増強する
  7. 前癌状態領域を減少する発癌抑制
  8. 血管拡張作用など。

【使用上の注意】

  • 発熱、あるいは手足のほてりやのぼせ、潮熱などの症状を伴う場合に慎重に投与する。
  • 高血圧の患者に投与しない。

関連処方:人参養栄湯・八珍湯

(四)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

【組成】当帰・芍薬・白朮・川?・茯苓・沢瀉

【効能】補血調肝、運脾除湿。

【主治・適応症】肝血虚・脾虚湿滞。顔色が悪い、皮膚につやがない、手足のしびれ、筋のけいれん、頭痛、月経不順、月経量が少ない、月経痛、月経が遅れるなどの血虚の症候に、食欲不振、腹痛、むくみ、四肢の冷え、泥状便あるいは水様便、白色帯下、尿量が少ないなどの脾虚湿滞の症候を伴うもの、舌質が淡胖、舌苔が白、脈が細あるいは軟滑など。

【臨床応用】本方は顔色が悪い、皮膚につやがない、手足のしびれ、筋のけいれん、食欲不振、むくみ、四肢の冷え、泥状便あるいは水様便、尿量が少ないなどには用いられる。

老年性痴呆症、自律神経失調症、胃腸神経症、貧血、慢性腎炎、頭痛、眩暈、半身不随、心臓弁膜症、しみ、慢性肝炎、月経痛・月経不順・月経困難、不正性出血、冷え症、帯下、卵巣水腫などの疾患にも用いられる。

【参考】現代薬理学的研究によって、以下のことが証明されている。

  1. 卵巣機能不全を改善する
  2. 黄体形成ホルモン(LH)を上昇させる
  3. ブロゲステロン分泌を刺激する
  4. LH-RH分泌を促進し、下垂体からLH分泌を亢進させる
  5. 子宮―胎盤血流状態を改善させることで胎仔の発育を促進させる
  6. 貧血状態を改善する
  7. 記憶学習能力の改善効果
  8. 微小循環障害の改善作用
  9. 血圧降下作用、抗動脈硬化作用
  10. 鎮痛作用、鎮静作用、自律神経調整作用
  11. 利尿作用など。

関連処方:四物湯

(五)酸棗仁湯

【組成】酸棗仁・炙甘草・知母・茯苓・川?  

【効能】養血安神、清熱除煩

【主治】虚煩不眠

【適応症】不眠、煩燥、夢が多い、よく目がさめる、動悸、盗汗、頭のふらつき、めまい、口や咽喉部の乾燥感、舌質は紅、脈は弦あるいは細数など。

【参考】本方は、薬理研究によって、以下の効能が証明されている。

  1. 神経細胞の過度興奮を抑制する
  2. 鎮静安定剤の中枢抑制作用を増強する
  3. 激しい刺激を抵抗する能力を増強する
  4. 不整脈を治療する
  5. 組織細胞の機能を調節する
  6. 鎮静・催眠作用など。

【臨床応用】本方は肝血不足・虚火上擾による虚煩不眠を治療する処方であり、虚煩・不眠・動悸・口や咽喉の乾燥感・脈の弦細などが投与のポイント症候である。
不眠症、更年期症候群・神経症・自律神経失調症・高血圧・心臓病、心臓神経症・不整脈、ヒステリーなど。

【使用上の注意】

  • 胃腸虚弱の患者に下痢を起こす恐れがあるので慎重に投与すべきである。
  • 不眠がひどい患者に安定剤や睡眠導入剤を一緒に投与してもよい。
三、症候による漢方エキス剤の使い方
臨 床 の 症 候 漢方エキス剤
(1)腎陽虚: 腰や下肢の脱力感、腰痛、寒がり、四肢の冷え、小便不利、夜間頻尿、物忘れ、目のかすみ、尿失禁などを伴う。舌質が淡暗、舌苔が薄白、脈が沈細弱。 (7)八味地黄丸
(107)牛車腎気丸
(2)腎陰虚: 腰や下肢の脱力感、めまい、寝汗、手足のほてりやのぼせ、耳鳴り、物忘れ、潮熱など。舌質が紅、舌苔が少ない、脈が細数あるいは弦細。 (87)六味地黄丸
(3)心脾両虚: 精神不安、落ち着かない、動悸、健忘、不眠、夢が多い、自汗、食欲不振、疲労倦怠感などを伴う。舌質が淡紅、舌苔が薄白、脈が細弱。 (65)帰脾湯
(137)加味帰脾湯
(4)脾気虚: 全身疲労倦怠感、疲れやすい、食欲不振、味がない、軟便あるいは下痢、胃部の痛み、食後の不快感など。舌質が淡、舌苔が白、脈が弱あるいは虚弱。 (43)六君子湯
(75)四君子湯

(5)肝陽偏亢: 顔面紅潮、怒りっぽい、いらいら、目の充血、興奮しやすい、高血圧、眩暈、四肢のしびれなどを伴う。舌質が紅、舌苔が薄黄、脈が弦数あるいは弦細数。 (47)釣藤散
(46+15)七物降下湯合黄連解毒湯
(6)肺気虚: 声が低く弱々しい、かぜを引きやすい、力のない咳、喘息、息切れ、疲れやすい、自汗など。舌質が淡、舌苔が白、脈が弱あるいは虚弱。 (41)補中益気湯
(43)六君子湯
(7)血?: 四肢のしびれ、あるいは関節の痛み、手足の冷え、皮膚の紫暗や?斑、半身不随、腫瘍あるいはがんなどを伴う。舌質が暗紫、あるいは?斑、?点、舌苔が薄白、脈が細渋あるいは沈渋 (25)桂枝茯苓丸
(61)桃核承気湯

(7)気血両虚: 顔色が悪い、全身疲労倦怠感、疲れやすい、食欲不振、立ちくらみやめまい、四肢の冷え、舌質は淡、舌苔は薄白、脈は沈細あるいは沈弱。 (48)十全大補湯
(108)人参養栄湯
(9)血虚生風: 皮膚に乾燥でカサカサし、痒みがつよい、気候が乾燥すると症状がひどくなり、しばしば貧血や貧血気味などを伴う。舌質が淡、舌苔が薄白、脈が沈細。 (86)当帰飲子
(10)血熱 皮膚の熱感、痒みがつよい、熱くなると症状がひどくなり、しばしば湿疹や皮膚の炎症などを伴う。舌質が紅、舌苔が薄黄、脈が沈数。 (57)温清飲
四、ポイント症状による漢方エキス剤の使い方
臨  床  症  状 漢方エキス剤
★顔面の熱感、いらいら、興奮しやすい、頭痛、高血圧、眩暈などがある場合。 (47)釣藤散
★顔面紅潮、怒りっぽい、いらいら、目の充血、鼻血、結膜下の出血、高血圧などがある場合。 (15)黄連解毒湯
★痴呆、健忘、顔色の蒼白、言語障害、四肢の冷え、むくみや浮腫などがある場合。 (23)当帰芍薬散
★四肢の冷え、寒がり、小便不利、夜間頻尿、尿失禁、腰や下肢の痛み・脱力感などがある場合。 (7)八味地黄丸
★腰や下肢の脱力感、手足のほてりやのぼせ、めまい、耳鳴り、目の乾燥感などがある場合。 (87)六味地黄丸
★脳卒中、四肢のしびれ、あるいは半身不随、精神障害、顔色の灰暗、言語障害、便秘などの場合。 (61)桃核承気湯
★健忘、不眠、精神不安、自汗、食欲不振、疲労倦怠感などがある場合。 (65)帰脾湯
(137)加味帰脾湯
★疲労倦怠感、疲れやすい、食欲不振、四肢の冷えなどがある場合。

(48)十全大補湯

★十全大補湯の症状に精神不安、不眠、咳や痰などを伴う場合。 (108)人参養栄湯
★食欲不振、味がない、疲れやすい、軟便あるいは下痢などが見られる場合 (43)六君子湯
★疲労倦怠感、疲れやすい、声が低く弱々しい、かぜを引きやすい、内臓下垂、自汗などの場合。 (41)補中益気湯
★煩燥、いらいらする、不眠、動悸、頭痛、胸脇苦満、高血圧傾向などの場合。 (12)柴胡加竜骨牡蛎湯
★体質虚弱な人で、やせて顔色悪く、精神不安、疲れやすい、寝汗、手足の冷えなどの場合。 (26)桂枝加竜骨牡蛎湯
★不眠、煩燥、夢が多い、よく目がさめる、動悸、盗汗、頭のふらつきなどを認める場合。 (103)酸棗仁湯
★気分がふさいで、咽喉部につかえる感じ、気にしやすい、不眠、精神不安などの場合。 (16)半夏厚朴湯
★体質虚弱な人で、いらいらする、怒りやすい、気にしやすい、精神不安、疲れやすい、肩こり、のぼせなどの場合。 (24)加味逍遥散
★皮膚の乾燥感、カサカサし、痒みがつよい、気候が乾燥すると症状がひどくなる場合。 (86)当帰飲子
★皮膚の熱感、痒みがつよい、熱くなると症状がひどくなる場合。 (57)温清飲
★老人性便秘、便が固く、皮膚の乾燥感を伴う場合。 (51)潤腸湯
★お腹の冷え、食欲不振、軟便あるいは下痢、手足の冷えなどがある場合。 附子理中湯

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