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神経疾患の漢方治療(痴呆症)

一、病因病機
(一)西洋医学
1、脳血管障害性に伴う痴呆:
脳梗塞、脳出血、モヤモヤ病など
2、変性疾患に伴う痴呆:
Alzheimer病、Parkinson病、進行性核上性麻痺
3、内分泌疾患に伴う痴呆:
甲状腺機能低下症、Addison病など
4、栄養障害・代謝障害に伴う痴呆:
Wernicke脳症、ビタミンB12欠乏症、慢性代謝障害など
5、腫瘍に伴う痴呆:
脳腫瘍など
6、無酸素性脳症に伴う痴呆:
心肺疾患、一酸化炭素疔毒など
7、感染症に伴う痴呆:
脳炎、脳膜炎、神経梅毒、AIDSなど
8、金属代謝障害に伴う痴呆:
アルミニウム、水銀、マンガン、タリウム
9、薬物中毒に伴う痴呆:
抗悪性腫瘍薬、抗精神、睡眠薬、抗コリン薬など
10、その他:
正常圧水頭症、脳挫傷、筋緊張性ジストロフィー症など
(二)中医学
1、先天不足
2、痰濁内蒙
3、血?脳絡
4、熱病傷脳
5、毒邪氾脳
6、肝腎両虚
7、心脾両虚
二、漢方エキス剤
(一)、釣藤散(ちょうとうさん)

【処方組成】石膏、陳皮、麦門冬、半夏、茯苓、人参、防風、甘草、生姜、釣藤鈎、菊花。

【適応証候】頭痛、肩凝り、頭のふらつき、眩暈、耳鳴り、不眠、顔面の紅潮、いらいら、目の充血、舌質は紅、舌苔は薄黄膩、脈は弦やや数。

【臨床応用】本方は平肝潜陽・化痰清熱・益気健脾の生薬が配合されている処方であり、鎮静、鎮痛、鎮痙、降圧、清熱などの作用を持つとともに、消化吸収を促進し全身の機能を高める効果が得られる。臨床では、高血圧による頭痛、眩暈、目の充血、後頭部のこわばり、肩凝りなどを訴える場合に、あるいは自律神経失調症による頭痛、眩暈、頭のふらつき、耳鳴り、不眠、顔面の紅潮、いらいらなどを訴える場合に用いる。血圧が高い時には、降圧剤を併用したほうがよい。

【ポイント】頭のふらつき、眩暈、顔面の紅潮、脳血管障害などを伴う痴呆に用いる。 

(二)黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

【組成】黄連、黄?、黄柏、山梔子

【効能】瀉火解毒

【主治】三焦熱盛

【適応症】高熱、熱感、煩燥不眠、狂燥状態、言語錯乱、口や咽喉の乾燥感、鼻出血、吐血、皮下出血、湿疹や瘡?などの皮膚化膿症、舌質は紅、舌苔は黄、脈は数で有力など。

【処方解説】火毒が原因でいろいろ熱証や出血(熱迫血妄行)を引き起こす。本方は大苦大寒の生薬を用い、瀉火解毒の効能によって火熱による諸証を解消する。黄連が苦寒で心火を瀉し、兼ねて中焦(脾胃)の火を瀉し、主薬となる。黄?が上焦(心肺)の火を瀉し、肺熱を瀉し、黄連の瀉火解毒を助ける。黄柏が下焦(肝腎)の火を瀉し、山梔子が三焦の火を通瀉し、熱を下へ誘導する(導熱下行)。全体で清熱(解熱)・瀉火(消炎、鎮静)・解毒(抗菌、抗ウイルス)などの効能が得られる。

【臨床応用】本方は、清熱、瀉火、解毒の作用があり、火毒熱盛証に適応する。高熱、熱感、煩燥、いらいら、怒り易い、狂燥状態、鼻出血、脳血管障害や高血圧などが本方を投与するポイントです。

脳血管障害後遺症、脳血管障害性痴呆:
顔面紅潮、いらいらする、怒りっぽい、血圧が高い、舌質は紅、舌苔は黄、脈は弦数などの症状を呈する場合に本方を投与すると臨床症状を改善することが期待できる。
その以外に、発熱性疾患(インフルエンザ、日本脳炎、流行性脳脊髄膜炎など)、鼻出血、炎症性の出血、ウイルス性肺炎、急性腎盂腎炎、帯状疱疹、アトピー性皮膚炎、高血圧、急性胃炎、胃十二指腸潰瘍、陰部掻痒症、骨盤内炎症、慢性咽喉炎、細菌性下痢、整形手術後感染症の予防などの疾患で、発熱や熱感などの火毒熱盛証が見られる場合にも本方を用いる。

【参考】本方は薬理研究によって、以下のことを証明している。

  1. 抗菌作用
  2. 抗炎症作用
  3. 循環系に対する作用
  4. 血小板凝集抑制作用
  5. 解熱、抗毒素作用

本方が解熱、抗毒素作用があり化膿性や非化膿性の炎症・発熱をしずめる(清熱解毒)。 鎮静、血圧降下などの作用をもち、自律神経の興奮や脳の充血を緩解する(清熱瀉火)。黄連・黄?・黄柏は炎症性充血を軽減し、山梔子は止血し、黄柏は血管透過性抑制に働き、共同に炎症性出血を止める(涼血止血)。

【使用上の注意】

  • 寒がりや手足の冷えなどの寒証が見られる場合に本方を投与しない。
  • 胃腸が弱く、温かいものを好む患者に投与しない。
  • 本方を投与中に手足の冷えや寒がりなどの症状が出れば投与を中止すべきである。
(三)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

【組成】当帰、芍薬、白朮、川?、茯苓、沢瀉

【効能】補血調肝、運脾除湿。

【主治・適応症】肝血虚・脾虚湿滞。顔色が悪い、皮膚につやがない、手足のしびれ、筋のけいれん、頭痛、月経不順、月経量が少ない、月経痛、月経が遅れるなどの血虚の症候に、食欲不振、腹痛、むくみ、四肢の冷え、泥状便あるいは水様便、白色帯下、尿量が少ないなどの脾虚湿滞の症候を伴うもの、舌質が淡胖、舌苔が白、脈が細あるいは軟滑など。

【臨床応用】本方は顔色が悪い、皮膚につやがない、手足のしびれ、筋のけいれん、食欲不振、むくみ、四肢の冷え、泥状便あるいは水様便、尿量が少ないなどの症候を伴う痴呆には用いられる。
痴呆症以外に、不妊症、習慣性流産、胎位異常、妊娠中の浮腫・妊娠中毒症・子癇前駆症、月経痛・月経不順・月経困難、不正性出血、冷え症、帯下、老年性痴呆症、自律神経失調症、胃腸神経症、貧血、慢性腎炎、頭痛、眩暈、半身不随、心臓弁膜症、しみ、慢性肝炎、卵巣水腫などの疾患にも用いられる。

【参考】現代薬理学的研究によって、以下のことが証明されている。

  1. 卵巣機能不全を改善する
  2. 黄体形成ホルモン(LH)を上昇させる
  3. ブロゲステロン分泌を刺激する
  4. LH-RH分泌を促進し、下垂体からLH分泌を亢進させる
  5. 子宮―胎盤血流状態を改善させることで胎仔の発育を促進させる
  6. 貧血状態を改善する
  7. 記憶学習能力の改善効果
  8. 微小循環障害の改善作用
  9. 血圧降下作用、抗動脈硬化作用
  10. 抗炎症作用
  11. 鎮痛作用、鎮静作用、自律神経調整作用
  12. 利尿作用など。
(四)八味地黄丸(はちみじおうがん)

【組成】地黄、山薬、山茱萸、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂枝、附子   

【効能】温補腎陽

【主治・適応症】腎陽虚証、腎陰陽両虚証腰や下肢がだるくて力がない、腰や下肢の冷感、四肢の冷え、ふらつき、耳鳴り、聴力減退、寒がり、インポテンツ、頻尿、排尿困難、夜間多尿、遺尿、浮腫、歯の動揺、舌質は淡白、舌苔は白滑、脈は沈で無力など。

【臨床応用】本方は、腰や下肢がだるくて力がない、四肢の冷え、寒がり、頻尿、排尿困難、夜間多尿などを伴う痴呆に用いられる。
痴呆症以外に、糖尿病、甲状腺機能低下、リュウマチ性関節炎、気管支喘息、腎炎、ネフローゼ、男性不妊症、前立腺肥大症、慢性前立腺炎、慢性膀胱炎、腰痛、骨粗鬆症、白内障、老人性膣炎、萎縮性膣炎、老化現象などにも用いられる。

【参考】>本方は現代薬理研究によって、以下のことを証明している。

  1. 抗老化作用
  2. 免疫能の増強作用
  3. 糖質代謝の改善効果
  4. 水分や電解質代謝の調整作用
  5. 脂質代謝の改善作用・コレステロールの回転率促進作用・動脈硬化の防止作用
  6. 白内障発症時期の遅延作用・水晶体中の混濁遅延作用
  7. 視神経伝達の改善作用
  8. 皮膚機能の促進作用
  9. 膀胱から青斑核に到る感覚性求心路に作用し、排尿反射を抑制するが、排尿反射における遠心路には作用しない
  10. コリン作動性神経系に作用することで学習能を改善する
  11. 骨吸収亢進の抑制と骨形成系の機能促進作用。

【使用上の注意】

  • 口や咽喉部の乾燥感、舌質は紅、舌苔は少ないなどの虚火上炎の症状が見られる場合に投与しない。
  • 胃腸が弱く、軟便や下痢などが見られる場合には慎重に投与すべきである。
三、症候による漢方エキス剤の使い方
臨 床 の 症 候 漢方エキス剤
(1)肝腎陰虚:
物忘れ、失行、失認、痩せ、手足のほてりやのぼせ、めまい、耳鳴り、腰や下肢の脱力感など。舌質が紅、舌苔が少ない、脈が細数あるいは弦細。
(87)六味地黄丸
(2)心脾両虚:
痴呆、行動緩慢、言語障害等に、健忘、不眠、精神不安、自汗、食欲不振、疲労倦怠感などを伴う。舌質が淡紅、舌苔が薄白、脈が細弱。
(65)帰脾湯
(137)加味帰脾湯
(3)脾腎陽虚:
記憶障害、行動緩慢、痴呆などに寒がり、四肢の冷え、食欲不振、軟便あるいは下痢、小便不利、尿失禁などを伴う。舌質が淡暗、舌苔が薄白、脈が沈細弱。
(7+32)八味地黄丸合人参湯
(107)牛車腎気丸
(4)肝陽偏亢:
痴呆の症状に、顔面紅潮、怒りっぽい、いらいら、目の充血、興奮しやすい、妄想、高血圧、眩暈、四肢のしびれなどを伴う。舌質が紅、舌苔が薄黄、脈が弦数あるいは弦細数。
(47)釣藤散
(46+15)七物降下湯合黄連解毒湯
(5)髄海空虚:
智能減退、健忘、疲労倦怠感、腰や下肢の脱力感、小便不利、毛髪の枯れ、歯の揺れ、舌質が淡、舌苔が薄白、脈が沈弱。
(7)八味地黄丸
(6)痰?閉阻:
脳卒中、四肢のしびれ、あるいは半身不随に、智能減退、健忘、感情失禁、顔色の灰暗、反応遅鈍、言語障害などを伴う。舌質が暗紫、あるいは?斑、?点、舌苔が薄白、脈が細渋あるいは沈渋
(23)当帰芍薬散
(81+71)黄連解毒湯合四物湯
(61)桃核承気湯
四、ポイント症状による漢方エキス剤の使い方
臨  床  症  状 漢方エキス剤
★痴呆、顔面の熱感、いらいら、興奮しやすい、妄想、高血圧、眩暈などがある場合。 (47)釣藤散
★痴呆、顔面紅潮、怒りっぽい、いらいら、目の充血、鼻血、妄想、高血圧などがある場合。 (15)黄連解毒湯
★痴呆、健忘、感情失禁、顔色の灰暗、言語障害、四肢の冷えなどがある場合。 (23)当帰芍薬散
★痴呆、四肢の冷え、寒がり、小便不利、尿失禁、腰や下肢の痛み・脱力感などがある場合。 (7)八味地黄丸
★痴呆、物忘れ、手足のほてりやのぼせ、めまい、耳鳴り、腰や下肢の脱力感などがある場合。 (87)六味地黄丸
★脳卒中、四肢のしびれ、あるいは半身不随に、痴呆、顔色の灰暗、言語障害、便秘などの場合。 (61)桃核承気湯
★健忘、不眠、精神不安、自汗、食欲不振、疲労倦怠感などがある場合。 (65)帰脾湯
(137)加味帰脾湯
★痴呆、疲労倦怠感、疲れやすい、食欲不振、四肢の冷えなどがある場合。 (48)十全大補湯
(108)人参養栄湯
四、経験方:
1、痴呆方:
人参6g、黄耆6g、乾姜2g、白朮5g、石菖蒲5g、陳皮3g、半夏3g、益智仁6g、山薬6g。
[加減]不眠のものに酸棗仁5g、夜交藤10gを加える。気にしやすい、腹部膨満などの気滞症候があるものに柴胡4g、鬱金4g、佛手3gを加える。
2、補腎益脳湯:
何首烏5g、山茱萸5g、枸杞子5g、莵絲子6g、山薬5g、赤芍4g、丹参5g、石菖蒲3g、鬱金3g、遠志3g。
3、補脳湯:
熟地黄5g、何首烏5g、肉?蓉3g、枸杞子5g、巴戟天3g、酸棗仁5g、五味子2g、麦門冬3g、石菖蒲2g、炙甘草2g、遠志3g、鹿角膠3g。
五、食事療法:
1、補腎健脳・抗老化の食物:
核桃仁(クルミ)、胡麻、落花生(ピーナツ)。
2、血糖・血脂を下がる食物:
大蒜、玉葱、山?、椎茸、緑豆。
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