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肩こりと五十肩の漢方治療

一、西洋医学

頸部・肩部、肩関節のこわばり・痛み・しびれなどは肩関節周囲炎(五十肩)、頸肩腕症候群、頚部捻挫、外傷性疾患、先天性疾患、脊椎・脊髄・軟部組織の腫瘍、頸部・背部・上肢の炎症性疾患、慢性関節リュウマチおよび類似疾患、頸部・背部の脊椎・肩甲帯・上肢の退行性疾患、神経症、自律神経失調症、更年期障害、慢性疲労などに見られる。

二、中医学

外因

  1. 風寒湿邪の侵入
  2. 肩や頚部の疲労
  3. 肩や頚部の外傷

内因

  1. 肝気鬱結
  2. 肝腎両虚
  3. 気血両虚
  4. 気滞血?
三、漢方エキス剤
(一)葛根湯(かっこんとう)

【組成】葛根・麻黄・桂枝・炙甘草・芍薬・生姜・大棗

【効能】辛温解表・生津・舒筋

【主治】外感風寒

【適応症】悪寒、発熱、首や背中の痛み、肩こり、頭痛、無汗、舌苔は白薄、脈は浮緊。

【臨床応用】比較的体力が充実した人で、悪寒、発熱、無汗、頭痛、身体疼痛、肩こり、項背部のこわばりなどの症状が本方を使用する上での重要なポイントです。
肩こり、五十肩の以外に、上半身の神経痛感冒、流感、鼻カゼ、熱性疾患の初期、炎症性疾患(結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、リンパ腺炎、乳腺炎)、胃腸型感冒、蕁麻疹、湿疹、特発性三叉神経痛、症状性顔面痛、産後の乳汁分泌不足、後頭部神経痛、脳炎・脳膜炎の早期、顔面神経麻痺(ベル麻痺)、頚椎症、流行性耳下腺炎、顎関節運動時疼痛・自発痛、咀嚼筋や頚部筋群の圧痛、乳腺炎、小児機能的遺尿証、急性多発性瞼腺疾患、銀屑病、慢性鼻炎などにも効果がある。

【使用上の注意】

  • 本方は体が弱くて汗が出やすいものに適応しない。
  • 感冒やインフルエンザの回復期にサイトカインの反応を抑制することは回復を遅らせることにより、虚弱で反応性の弱いヒトの反応性を、さらに抑制する葛根湯は適当ではない。
(二)疎経活血湯(そけいかっけつとう)

【組成】当帰・白芍・川?・熟地黄・蒼朮・茯苓・桃仁・牛膝・防已・威霊仙・?活・防風・白?・竜胆草・陳皮・炙甘草・生姜

【効能】去風湿、補血、活血化?

【主治】血虚の風湿痺証

【適応症】

肩関節や肩の痛み、肩関節の運動障害、上肢のしびれなどの症候に、冷え、皮膚の?斑など血液循環障害の症状を伴うもの、舌質は暗、舌苔は白膩、脈は弦緊。
【臨床応用】本方は疏経活血・去風除湿通絡の生薬が配合されている処方であるので、血虚の人で、風湿侵入・?血内停によって生じる肩こり、肩関節の痛み、上肢の活動制限などの場合に適応する。

【使用上の注意】

  • 本方は胃腸が弱いものに慎重に投与する。
(三)桂枝茯苓丸加?苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)

【組成】桂枝・茯苓・芍薬・桃仁・牡丹皮・?苡仁

【効能】活血化?、利水清熱

【主治・適応症】?血証にむくみや浮腫を伴う場合に適応する。
下腹部の腫瘍、月経困難、月経痛、無月経、子宮筋腫や卵巣腫瘍の初期、子宮内膜症などに下腹部の疼痛や圧痛抵抗などの症状があり、むくみや浮腫を伴うもの。
また、肩こり、五十肩、頚部捻挫などに痛み、こわばり、むくみ、上肢のしびれなどを伴うもの。

【臨床応用】肩こり、五十肩、頚部捻挫など以外に、月経困難、月経痛、無月経、不正性器出血、子宮内膜症、子宮筋腫や卵巣腫瘍の初期、産後子宮復古不全、死胎、骨盤内炎症、乳腺腫瘍などに、下腹部の痛みや冷え、局部の圧痛や抵抗、むくみや浮腫などを認める場合には本方を投与する。
肩こりの場合に本方をよく用いる。
五十肩の場合には二朮湯合桂枝茯苓丸加?苡仁を投与する。
頚部捻挫の場合には葛根湯合桂枝茯苓丸加?苡仁を投与する。

【使用上の注意】

  • 妊婦には本方の投与を禁忌とする。
  • 出血性疾患や月経量過多の患者には慎重に投与する。
  • 本方は空咳や咽喉部の乾燥感などの陰虚症状が見られる場合には投与しない。
  • 著しく体力の衰えている患者や胃腸の弱い患者には慎重に投与する。
(四)加味逍遥散(かみしょうよんさん) 

【組成】当帰・芍薬・白朮・茯苓・柴胡・甘草・丹皮・山梔子

【効能】疏肝健脾、和血調経、清熱瀉火

【主治・適応症】肩こり、背中のこわばり、胸脇部が脹って苦しい、ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、頭痛、潮熱、顔面の紅潮、口や咽喉部の乾燥感、疲れやすい、女性では、月経不順、月経痛、月経前の乳房脹痛、下腹部の脹痛、無月経など。舌質が紅、舌苔が薄黄、脈が弦細数。

【臨床応用】肩こり以外に、自律神経失調症・抑うつ症・ヒステリー・神経症、更年期障害、月経不順、月経痛、不正性出血、月経前期症候群、乳腺症、慢性乳腺炎、慢性肝炎、皮質性失明、視神経炎、中心性網膜炎、網膜中央静脈梗塞、老年性白内障、化膿性角膜潰瘍、慢性甲状腺炎、過敏性腸症候群、胃十二指腸潰瘍、神経性胃炎、神経性下痢、胆嚢炎、胆石症、月経前後症候群、不妊症、産後不眠症、精神分裂症などの疾患にも用いる。

【使用上の注意】

  • 妊婦及び妊娠している可能性のある婦人に慎重に投与する。
  • 胃腸が虚弱しているものに下痢や腹痛を起こす恐れがあるので慎重に投与すべきである。
(五)二朮湯(にじゅつとう) 

【組成】蒼朮・白朮・茯苓・?活・天南星・威霊仙・半夏・黄?・陳皮・香附子・生姜・炙甘草

【効能】?風湿、化痰利水

【主治・適応症】

湿痺(着痺):
筋肉や関節のだるい・しびれ・痛み、運動障害、むくみや軽度の浮腫などで、舌質は白膩、脈は滑。

【臨床応用】本方は浮腫消退・利尿・鎮痛・鎮痙などの効果があり、肩関節周囲炎(五十肩)、頸肩腕症候群、腰痛症、膝関節症、慢性関節炎、慢性関節リウマチなどで、湿痺の症候を伴うものに用いる。
五十肩の急性期に発熱や熱感の症候を伴う場合には二朮湯合越婢加朮湯を投与する。
五十肩の慢性期に?血の症候を伴う場合には二朮湯合桂枝茯苓丸加?苡仁を投与する。

【使用上の注意】

  • ほてり・のぼせ・潮熱などの陰虚症候を伴うものに投与しない。
四、証候によるエキス剤の使い方
臨 床 の 症 候 漢方エキス剤
●風寒侵入
肩こり、頚部のこわばりや痛み、項部が硬い、しばしば悪寒、冷え、身体痛、筋肉痛などを伴う、舌質は淡白、舌苔は薄白、脈は浮緊。
(1) 葛根湯
(1)葛根湯+附子
●寒湿停滞
肩のこわばりや痛み、項部や上肢のしびれ、むくみ、しばしば上肢の冷え、冷感などを伴う、舌質は淡暗、舌苔は白膩、脈は浮緊。
(1+125) 葛根湯合桂枝茯苓丸加?苡仁
●湿熱阻絡
五十肩、肩や肩関節の熱感や痛み、発熱、上肢の痛みや活動制限など、舌質は紅、舌苔は黄膩、脈は弦数。
(88+28) 二朮湯合越婢加朮湯
●気滞血?
五十肩、肩や肩関節に刺すような痛みがあり、上肢の痛みやしびれ、活動制限、冷えなど、舌質は紫暗、脈は弦渋。
(53)疏経活血湯
(88+125) 二朮湯合桂枝茯苓丸加?苡仁
●肝陽上亢 
 肩のこわばりや痛み、しばしば眩暈、いらいら、怒り易い、顔面の紅潮、高血圧などを伴う。舌質は紅、舌苔は薄黄、脈は弦数。
(47) 釣藤散
(46) 七物降下湯
●気血虚弱
 肩のこわばりや痛み、上肢のしびれ、しばしば顔色が悪い、疲労倦怠感、食欲不振、疲れやすいなどを伴う。舌質は淡、舌苔は薄白、脈は沈細無力。
(48) 十全大補湯
(108) 人参養栄湯
●腎陰虚
 肩のこわばりや痛み、しばしばほてり、のぼせ、潮熱、寝汗、腰や膝の脱力感などを伴う。舌質は紅、脈は細数。
(87) 六味地黄丸
(1+87) 葛根湯合六味地黄丸
●腎陽虚
 肩のこわばりや痛み、しばしば腰痛、腰や膝の脱力感、四肢の冷え、寒がり、夜間頻尿などを伴う。舌質は淡、脈は沈細弱。
(7) 八味地黄丸
(1+7) 葛根湯合八味地黄丸
五、ポイント症状による漢方エキス剤の使い方・選び方
臨  床  症  状 漢方エキス剤
★ 肩のこわばりや痛み、項部が硬い、しばしば寒がりや冷えなどを伴う場合。 (1)葛根湯
(2)葛根湯加附子
★ 肩こり、頚部のこわばりや痛み、上肢のしびれ、むくみなどを伴う場合。 (1+125) 葛根湯合桂枝茯苓丸加?苡仁
★ 五十肩に肩関節の痛み、活動制限などが見られるの場合。 (88)二朮湯
★ 五十肩の急性期に肩関節の痛みや熱感、腫れ、発熱などが見られるの場合。 (88+28) 二朮湯合越婢加朮湯
★ 五十肩が慢性になり、肩関節の痛み、活動制限、夜に痛みがひどくなる場合。 (88+125)二朮湯合桂枝茯苓丸加?苡仁
★ 肩や肩部に刺すような痛みがあり、上肢の痛みやしびれを伴う場合。 (1+25) 葛根湯合桂枝茯苓丸
★ 肩こり、肩部に刺すような痛みがあり、上肢のしびれや痛みなどを伴う場合。蓄 (53)疏経活血湯
★ 肩こり、頚部のこわばりや痛み、しばしば顔面の紅潮、高血圧などを伴う場合。 (46) 七物降下湯
★ 肩こり、上肢の痛み、しびれ、冷えや冷感を伴う場合。 (18) 桂枝加朮附湯
★ 肩こり、気にしやすい、いらいら、潮熱、背中の痛みやこわばりなどを伴う場合。 (24) 加味逍遙散
★ 肩こりに上半身の熱感、下半身の冷え、頭痛を伴う場合。 (63) 五積散
★ 肩こりに全身の疲労倦怠感、食欲不振、疲れやすいなどを伴う場合。 (41) 補中益気湯
★ 肩こり、頚部のこわばりや痛み、上肢のしびれ、しばしば顔色が悪い、疲労倦怠感、食欲不振などを伴う場合。 (48) 十全大補湯
(108) 人参養栄湯
★ 肩のこわばりや痛み、しばしばほてり、のぼせ、潮熱、寝汗、腰や膝の脱力感などを伴う場合。 (1+87) 葛根湯合六味地黄丸
★ 肩や頚部のこわばりや痛み、しばしば腰痛、腰や膝の脱力感、四肢の冷え、寒がり、夜間頻尿などを伴う場合。 (1+7) 葛根湯合八味地黄丸
★ 肩こり、上肢の痛みやしびれ、冷感や冷えがひどい場合。 (38)当帰四逆加呉茱萸生姜湯

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