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頭痛の漢方治療

一、概説

 頭痛とは、頭部の片側、両側、頭頂部、後頭部などに現われる疼痛を主症状とすることである。頭痛を起こす病気はさまざまで、病因もとても複雑である。

 中医学では、頭痛の原因は、風、寒、熱、湿、気虚、血虚、腎虚、?血などがあると考えられる。例えば、風邪は頭痛を起こす場合に痛みが起こったり止ったりする変化しやすい特徴があり、寒邪は頭痛を起こす時に頭を触ると冷たい、いわゆる冷痛で、冷えると痛みが悪化する特徴があり、湿邪は頭痛を起こす場合に頭が重くて痛い特徴がある。また気虚による頭痛は綿痛が多く見られ、疲労倦怠感、脱力感、食欲不振などの症状を伴う特徴がある。さらに血虚による頭痛は隠痛が多く見られ、貧血、顔色が悪い、眩暈、動悸、不眠などの症状を伴い、腎虚による頭痛は頭頂部の痛みがよく見られ、腰や下肢の疲れや脱力感、排尿異常などの症状を伴う特徴がある。?血による頭痛は、外傷の病歴、刺すような痛みなどが特徴として考えられる。

 現代医学では偏頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、頭部外傷に伴う頭痛、血管障害に伴う頭痛、非血管性頭蓋内疾患に伴う頭痛、代謝疾患に伴う頭痛、感染症に伴う頭痛などに分類して考えられる。頭蓋内疾患や代謝疾患などに伴う頭痛に対しては、元の疾患を治らないと頭痛がなかなか治らないため、対症療法として鎮痛剤を投与する。非器質性疾患に伴う頭痛に対しては、鎮痛剤や鎮静剤などを投与しているのが現状である。

 現代中医学は頭痛に対して西洋医学の診断や臨床検査のデータによって弁証論治をする。すなわち西洋医学の診断に従って、頭痛を引き起こす原因や全身のバランス状態を判断し、いくつかのタイプに分けて漢方薬を投与する。中医学治療は、非器質性疾患の頭痛に対しては、鎮痛の効果だけではなく、全身のバランスを調整し、原因を除き、さらに頭痛を完治することもできる。激しい頭痛に対して、漢方薬の鎮痛効果が弱い場合には、西洋薬の鎮痛剤を併用すると漢方薬あるいは西洋薬を単独で用いるより両者の優れた点を合わせてさらにすばらしい効果が得られるだろう。

二、漢方エキス剤
(一)呉茱萸湯(ごしゅゆとう)

【処方構成】呉茱萸、人参、大棗、生姜。

【適応証候】反復性に生じる頭痛、項や肩のこり、悪心、嘔吐、眩暈、手足の冷え、舌質は淡白、舌苔は白滑、脈は沈弦遅。

【臨床応用】本方は散寒止痛・健脾益気・温胃止嘔の生薬が配合されている処方であるので、寒証をともなう頭痛に適応する。臨床では、発作性に起こる激しい偏頭痛あるいは頭頂部の疼痛とともに、首や肩の凝り、手足の冷え、食欲不振、悪心、嘔吐を伴う場合に本方を用いる。

本方は、散寒止痛・健脾益気の作用があるので、虚寒証による頭痛に適応する。実証や熱証による頭痛に対して投与しない注意が必要である。

【ポイント】反復性に生じる頭痛と共に、項や肩のこり、悪心、嘔吐、手足の冷えなどを伴う場合に用いる。 

(二)川?茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)

【処方構成】川?、香附子、荊芥、薄荷、白?、防風、甘草、羌活、茶葉。

【適応証候】突発性の頭痛、しばしば悪寒、発熱、鼻づまりなどをともなう。舌苔は薄白、脈は浮。

【臨床応用】本方は、疏風散寒・止頭痛の生薬が配合されている処方であり、鎮痛、解熱、発汗、鎮静などの効果がある。臨床では、カゼ、流感、感染症の初期などに現われる頭痛、同時に悪寒、発熱、鼻塞まりなどの表証を伴うものにはよく使われる。カゼや流感などではなくても寒邪あるいは風寒の侵入による頭痛にも適応する。しかし風熱の侵入や高熱をともなう場合に投与しないほうがよい。

【ポイント】悪寒、発熱、鼻塞などを伴う頭痛に用いる。

(三)葛根湯(かっこんとう)

【処方構成】葛根、大棗、麻黄、甘草、桂枝、芍薬、生姜。

【適応証候】悪寒、悪風、発熱、無汗、頭痛、鼻塞、身体疼痛、項背部のこわばりなど、舌苔は薄、脈は浮。

【臨床応用】本方は辛温解表・生津・止痛の生薬が配合されている処方であり、発汗、解熱、鎮痛、滋養などの効果が得られる。臨床では感冒などの熱性疾患の初期には、悪寒、発熱、頭痛、鼻塞、身体疼痛、項背部のこわばりなどがある場合によく使用する。ただし、自然発汗を伴わない場合にかぎり使用し、早ければはやいほど効果がある。自然発汗あるいは大汗を伴う場合には中止する。そのほか、上半身の疼痛性疾患で局所の痛み、腫脹、こわばりなどがある場合にも用いる。風寒の表証を持たなくても寒邪による後頭部の頭痛や神経痛などが起こる場合にもいい効果が期待できる。?血証をともなう場合には、鎮痛効果が弱い時に桂枝茯苓丸加?苡仁を合方する。

【ポイント】比較的体力が充実した人で、頭痛とともに、悪寒、発熱、無汗、身体疼痛、項背部のこわばりなどをともなう場合に用いる。 

(四)当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)

【処方構成】当帰、桂枝、芍薬、木通、呉茱萸、甘草、細辛、大棗、生姜。

【適応証候】頭痛、腰部や下腹部の冷え・痛み、手足の冷えやしもやけ、舌質は淡白、舌苔は白、脈は沈細あるいは細弱。

【臨床応用】本方は温経散寒・養血通脈の生薬が配合されている処方であるので、血虚寒滞・血脈不通によって生じる頭部の冷痛に適応する。臨床では、頭痛とともに、腰痛、手足の冷え、下腹部の痛み、悪心、嘔吐などを伴う場合に用いる。

【ポイント】悪心、嘔吐、手足の冷え、しもやけなどを伴う頭痛に用いる。 

(五)半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

【処方構成】陳皮、半夏、茯苓、白朮、人参、黄耆、天麻、沢瀉、乾姜、生姜、麦芽、黄柏。

【適応証候】頭痛、眩暈、頭重感、目がくらむ、悪心、嘔吐、胸腹部が脹って苦しい、食欲不振、疲れやすい、舌質は淡白、舌苔は白膩、脈は弦滑。

【臨床応用】本方は化痰熄風・補気健脾・利水消食の生薬が配合されている処方であり、消化吸収や全身の機能・代謝を促進して頭痛や眩暈の根本原因を改善し、利水によって浮腫をのぞいて頭痛や眩暈を治療するものである。臨床では、持続性であまり激しくない頭痛、頭が重たい、眩暈などの症状と同時に、悪心、嘔吐、胸腹部が脹って苦しい、倦怠感、食欲不振、疲れやすいなどの症状をともなう場合に用いる。頭痛より頭が重たい症状が明らかに見られる場合に投与する。

【ポイント】頭重感、悪心、嘔吐、食欲不振、全身倦怠感などを伴う頭痛に用いる。 

(六)釣藤散(ちょうとうさん)

【処方構成】石膏、陳皮、麦門冬、半夏、茯苓、人参、防風、甘草、生姜、釣藤鈎、菊花。

【適応証候】頭痛、肩凝り、頭のふらつき、眩暈、耳鳴り、不眠、顔面の紅潮、いらいら、目の充血、舌質は紅、舌苔は薄黄膩、脈は弦やや数。

【臨床応用】本方は平肝潜陽・化痰清熱・益気健脾の生薬が配合されている処方であり、鎮静、鎮痛、鎮痙、降圧、清熱などの作用を持つとともに、消化吸収を促進し全身の機能を高める効果が得られる。臨床では、高血圧による頭痛、眩暈、目の充血、後頭部のこわばり、肩凝りなどを訴える場合に、あるいは自律神経失調症による頭痛、眩暈、頭のふらつき、耳鳴り、不眠、顔面の紅潮、いらいらなどを訴える場合に用いる。血圧が高い時には、降圧剤を併用したほうがよい。

【ポイント】頭のふらつき、眩暈、顔面の紅潮、いらいらなどを伴う頭痛に用いる。 

(七)七物降下湯(しちもつこうかとう)

【処方構成】当帰、地黄、芍薬、川?、黄耆、黄柏、釣藤鈎。

【適応証候】頭痛、肩凝り、頭のふらつき、眩暈、耳鳴り、のぼせ、疲れやすい、舌質は淡または紅、舌苔は薄、脈は細弦。

【臨床応用】本方は益気養血・平肝降火の生薬が配合されている処方であり、補血、鎮静、鎮痛、鎮痙、降圧、強壮などの効果が得られる。臨床では、高血圧症、自律神経失調症、更年期症候群などの疾患による頭痛、肩凝り、眩暈、頭のふらつき、耳鳴り、のぼせ、眼精疲労、疲れやすいなどを訴える場合に用いる。ほてり、のぼせ、鼻血をともなう場合に黄連解毒湯を合方する。本方は虚証の高血圧症による頭痛に適応するが、実証の高血圧症による頭痛には、投与しないほうがよい。

【ポイント】肩凝り、後頭部のこわばり、耳鳴り、疲れやすいなどを伴う頭痛に用いる。

(八)桂枝人参湯(けいしにんじんとう)

【処方構成】桂枝、人参、白朮、乾姜、炙甘草。

【適応証候】頭痛、悪寒、微熱、自汗、疲労倦怠感、食欲不振、下痢、舌質は淡、舌苔は白、脈は沈遲あるいは沈細無力など。

【臨床応用】本方は温中散寒・健脾益気・辛温解表の生薬が配合されている処方であるので、虚寒証による頭痛に適応する。臨床では、脾胃虚寒が基礎にあるものがカゼにかかり、頭痛、悪寒、微熱、自汗、関節痛などの症状をともなう場合に用いる。脾胃虚寒証は疲労倦怠感、食欲不振、味がない、手足や腹部の冷え、泥状あるいは水様便など症状がある。脾胃虚寒証に対して人参湯を用いるが、頭痛、悪寒、微熱、自汗などの表寒証をともなう場合に桂枝人参湯を投与する。表寒証を持たなくても脾胃虚寒証による頭痛にも適応する。例えば、頭痛と同時に寒がり、四肢の冷え、低血圧、疲れやすい、食欲不振などの症状をともなう場合には本方を投与するといい効果が期待できる。

【ポイント】悪寒、微熱、自汗、疲労倦怠感、食欲不振などを伴う頭痛に用いる。

三、症候によるエキス剤の使い方
臨 床 の 症 候 漢方エキス剤
●風寒頭痛型
頭部や頚部の跳痛や撃痛、悪寒、悪風、鼻塞、クシャミ、身体痛、筋肉痛などを伴う、舌質は淡白、舌苔は薄白、脈は浮弦あるいは緊。
(124) 川?茶調散
(1)葛根湯
●風熱頭痛型
 頭部の脹痛、発熱、赤ら顔、口渇、咽喉痛、目の充血、便秘などを伴う、舌質は紅、舌苔は薄黄、脈は浮数。
※(58)清上防風湯
※(50)荊芥連翹湯
●風湿頭痛型 
 頭痛、頭重、四肢と体がだるく重たい、胸部の煩悶感、食欲不振、軟便あるいは下痢、小便不利、舌苔は白膩、脈は浮滑あるいは脈濡。
※(17) 五苓散
●気虚頭痛型
 頭部の綿痛、過労により痛みが誘発あるいは増強する。息ぎれ、疲労倦怠感、食欲不振、疲れやすいなどを伴う。舌質は淡白、脈は沈細無力あるいは虚。
(41) 補中益気湯
(82)桂枝人参湯
●血虚頭痛型
 頭部の隠痛、頭がふらつく、立つと頭痛がひどくなり、横になれば軽減する。顔色が悪い、めまい、動悸、忘れやすい、不眠などを伴う。舌質は淡白、脈は沈細弱。
(108) 人参養栄湯
(71)四物湯+(75)四君子湯
●腎陰虚頭痛型
 頭部の空痛、痛みが軽い、めまい、耳鳴り、ほてり、のぼせ、潮熱、寝汗、イライラする、腰や膝の脱力感などを伴う。舌質は紅、脈は細数。
※(87) 六味地黄丸
●腎陽虚頭痛型
 頭痛は程度が軽い、温めるのを好む、寒冷や疲労により増強する。腰痛、腰や膝の脱力感、四肢の冷え、軟便あるいは下痢、尿量減少、浮腫などを伴う。舌質は淡、脈は沈細弱。
(7) 八味地黄丸
●肝陽頭痛型
 偏頭痛、煩躁、イライラ、怒りっぽい、赤ら顔、疲労倦怠感、脇肋痛などの証候を伴う。舌質は紅、舌苔は薄黄、脈は弦あるいは弦細数。
※(47) 釣藤散
※(46)七物降下湯
●肝火頭痛型
 偏頭痛、熱感、赤ら顔、目の充血、耳鳴りあるいは難聴、口苦、口渇、便秘などの証候を伴う。舌質は紅、舌苔は黄、脈は弦数。  
(76)竜胆瀉肝湯
●肝鬱頭痛型
 偏頭痛、不安な感情や精神的なストレスなどで誘発される。心窩部や季肋部が脹って重苦しい、ゲップ、食欲不振、よくうつ状態などを伴う。舌苔は白色、脈は弦。
(24)加味逍遥散
●寒厥頭痛型
 偏頭痛あるいは頭頂部の痛みが多い、悪心、嘔吐、首や肩の凝り、胸部の煩悶、めまい、手足の冷えなどを伴う。舌質は淡白、舌苔は白滑、脈は沈遲。
(31)呉茱萸湯
●痰濁頭痛型
 頭は重くて痛む。めまい、悪心、嘔吐、胸部や季肋部が脹って重苦しい、食欲不振、痰や涎を盛んに吐くなどを伴う。舌苔は白膩、脈は滑あるいは弦滑。
(37)半夏白朮天麻湯
●?血頭痛型
 頭部の刺痛、跳痛、鈍痛は長年続き、治りにくい、痛む場所が固定、局部の圧痛、顔色や唇の暗黒、舌質は暗紫色、あるいは?点、?斑があり、脈は細渋。
※(25)桂枝茯苓丸+(124)川?茶調散
※(1+125)葛根湯合桂枝茯苓丸加?苡仁
※(61)桃核承気湯
四、ポイント症状による漢方エキス剤の使い方
臨  床  症  状 漢方エキス剤
★悪寒、発熱、鼻塞などを伴う頭痛。         (124)川?茶調散
★頭痛とともに、悪寒、発熱、無汗、身体疼痛、項背部のこわばりや痛みなどを伴う場合。        (1)葛根湯 
★反復性に生じる頭痛と同時に、項や肩のこり、悪心、嘔吐、手足の冷えなどを伴う場合。        (31) 呉茱萸湯 
★悪心、嘔吐、手足の冷えやしもやけなどを伴う頭痛 。 (38)当帰四逆加呉茱萸生姜湯 
★悪寒、微熱、自汗、疲労倦怠感、食欲不振などを伴う頭痛。 (82) 桂枝人参湯 
★頭重感、悪心、嘔吐、食欲不振、全身倦怠感を伴う頭痛。 (37) 半夏白朮天麻湯 
★頭のふらつき、眩暈、顔面の紅潮、いらいらなどを伴う頭痛。 (47) 釣藤散 
★肩凝り、後頭部のこわばり、耳鳴り、疲れやすいなどを伴う頭痛。 (46) 七物降下湯 
★ 手足のほてりやのぼせ、潮熱、下肢の脱力感などを伴う頭痛。 (87)六味地黄丸
★交通事故で後頭部や頚部にこわばり、痛みがあり、首の活動制限などが見られる場合。  (1+125)葛根湯合桂枝茯苓丸加?苡仁
★ 頭痛、肩こり、上半身に熱感があり、下半身に冷える場合。 (63)五積散

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